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一生に一度、に熱狂する前に【ラグビーW杯がやってきた】

(写真は前回大会準々決勝の南アフリカ対ウェールズ@トウィッケナム競技場)

いよいよラグビーワールドカップ日本大会が開幕する。
いつも海の向こうの世界だったワールドカップが自分の国にやってくる。日本開催の現実に興奮を隠せない。
しかし、ラグビーの分析に携わると身としては、ボーッと開幕を迎えたら叱られる。激しい熱戦に、そしてギネスにアサヒにハイネケンに我を忘れる前に、自分の覚え書きとして以下を記しておきたい。

1. 上位進出国はどこか

優勝候補が多く大混戦といわれる今大会。
自分の予想力養成、検証の機会として上位国を予想する。
思い入れや好き嫌いだけで決めるのでなく、ある程度根拠をもって示したい。

そのために以下の3つの指標を勝手に選び、ESPNで公開されているOPTA社による2019年の試合データ、例えば

からチームごとにランキングをつけ、3つの指標の総合得点で順位をつけてみる。


1)クリーンブレーク数

プール戦を勝ち抜くためには勝利は勿論だが、ボーナスポイントも重要な要素となる。「4トライ以上」の満額勝ち点5を得るためにはトライが大切で、トライにつながる重要パフォーマンスの一つとの報告もある「クリーンブレーク数」に注目した。またクリーンブレーク数は南半球ラグビーチャンピオンシップやスーパーラグビーなどで勝利チームに共通してみられる高い指標の一つとしても注目されている。

※クリーンブレーク数とトライ数との関連について

※クリーンブレーク数と勝利との関連について


ということでクリーンブレーク数上位3チームは以下となった。


1)クリーンブレーク数上位3チーム

1位 オーストラリア  16回

2位 日本       14.3回

2位 ニュージーランド 14.3回

オーストラリアの1位は意外かもしれないが、爆勝したNZ戦が記憶に新しい。前回大会のNZの優勝にも貢献し、世界的スキル指導者であるミックバーン氏が本領を発揮するか。日本が堂々の2位。快勝で湧いたPNCだけでなく敗れた先日の南ア戦でもゲイン距離では南アを上回っていた。そして忘れてはいけない世界王者NZが日本と同じ2位。

2)1試合あたりのキック数(ゴールキックは除く)

今年4月に来日した名将エディジョーンズ氏は、イングランドが勝つための必要な要件として6つのパフォーマンス指標を披瀝してくれた。これから「キック数」をみた。正確にはキック距離なのだが、データが公開されていないので1試合あたりのキック数に置き換えた。そうすると、上位3チームは、
1位 イングランド   33回

2位 フランス     29回

3位 ウェールズ   28.4回

(日本は21.3回の8位)

エディ監督率いるイングランドが昨年辺りから活用したキック戦術が印象的。北半球勢が上位を占めているのも納得。

3)相手ボールラインアウト奪取成功率%

最後に個人的な推しスタッツである「相手のラインアウト成功率(つまり相手ボール奪取率)」を加えさせていただいた。相手が投入するラインアウトをどのくらい妨害することができたかという項目である。

※相手ボールラインアウト奪取(この場合はスチール)の重要性に関して

井この指標、前回大会優勝のNZや近年の主要国際大会の優勝チームが共通して高いブラックボックス的存在である。上位に上がったのは、

1位 オーストラリア 20%

2位 ウェールズ   17.65%

3位 トンガ     17.68%

(日本は10位の10%)

オーストラリアが再びトップ。ウェールズが続く。この2チームのプール戦は注目である。トンガは雨中のサモア戦が好影響だったか。


以上から、3つの指標を総合的にまとめたところ、上位8チームは以下のようになった。

1位 イングランド
2位 オーストラリア
3位 南アフリカ
4位 スコットランド
5位 フランス
5位 ウェールズ
5位 ニュージーランド
8位 日本

対戦相手の強さによってパフォーマンスは大きく変わってくるので、単純比較は難しいのは敢えて承知である。しかしこれで上位8チームが決まった。

数値上の遊びかもしれない。しかし、全く根拠がないわけではない。

NZ南アフリカでなく、W杯での勝ち方を知りつくすエディ率いるイングランドや、ここ数年沈黙していたオーストラリアが上位に上がった点が面白い。そしてこれまで殆ど話題に上がっていないフランスも不気味な存在である。どのチームもノックアウトトーナメントでは十分勝ち抜ける力はあるだろう。そして日本が入り込んでいることも注目したい。

いっぽうでワールドラグビー現在世界ランク1位のアイルランドやスーパーラグビーで大躍進を見せたアルゼンチンが圏外になったわけだが、果たして結果はどうなるか。


Xファクター : 日本という戦いの場所


ここまで書き連ねた「エビデンス」を否定するつもりはないのだが、もう一つの要因にも触れたい。今回のW杯大会が強豪国にとっては日本という、どの国にとってもアウェイでの戦いであることも大きな影響を及ぼすだろう。
彼等にとって慣れない土地、人びと、言葉、風習、ホームともアウェイともいえない観客の雰囲気が、これまでの当たり前が当たり前に行えない何かを引き起こすことがある。過去の実績・データ通りにはいかない、誰も見たことないような結末。ラグビー新時代の象徴となるような大会となる気配がする。


2. 脳震盪問題など、トップリーグでの新ルール導入の可能性は


ここ数年来深刻な問題とされている脳震盪。
ワールドラグビーは、ディフェンス選手をフィールド前後にも散らばらせることで攻撃側にとってのスペースを創出することを狙いとした新しいルールの導入を検討していると聞く。これにより脳震盪の原因の一つとして挙げられる「無意味に」繰り返される激しい衝突を軽減できるというのが狙いらしい。

※キック促進の試験的ルールについて


今大会でのプレーで新ルールを必要な声が大きくなるか否か、にも注目したい。
その流れを真っ先に受けるのが年明け開幕のトップリーグだからである。

このほか、ハイタックルの規準とレフリングでの適用、ファウルプレーとカードの運用、TMOと試合の遅延、スクラムプレー時間などなど、様々な話題にも注目しておく必要があるだろう。


3. 日本代表


最後に我らが日本代表。

「史上最強」、メディアが賑やかである。盛り上げていただくことはありがたい。
確かに強さは身につけた。2015年以降も、日本代表は着実に進歩していると思う。関係者、選手の努力の賜物だろう。

プール戦を勝ち抜く可能性は十分にあると思う。
また、今回の日本代表は過去の大会では考えられない恵まれた日程である。
第2戦アイルランドとは、スコットランドとの激闘を終えたあとの短日程で戦える。
プール最終戦で雌雄を決する相手スコットランドは中3日で4試合目を戦う

まさに千載一遇。万が一リードを許していても、試合の終盤までもつれれば、疲労が溜まる彼等も苦しいはずである。十分に勝機はある。

もちろん懸念材料がないわけではない。
決して今の盛り上がりムードの足を引っぱるつもりはないのだが、もしも日本代表が「ノルマ」を果たせないとしたら以下の2つの不安要素が大きな原因となる、とみている。

1. ガチガチで面白くない戦いを貫かれる
 9月6日の南アフリカのように、どのチームも日本代表に対してベストメンバーで全員が常に100%の力を出し切るだろう。格上のはずのアイルランドやスコットランドも、日本相手にただひたすらに勝利だけを目指してくる。日程的には日本はこの上なく優位なのだが、それが返って彼等の「なりふり構わず」の戦いを引き出してしまうかもしれない。「負けて勝つよ」を地で行かれると困る。彼等はそうした戦いに長けている。

2. 自国開催、テストマッチの経験のなさによるプレッシャーにミス多発
 日本代表選手の多くはスーパーラグビーのような高レベルの試合経験は豊富だが、テストマッチの経験が乏しいと言われる。これらの2つは別ものと考えるのがこれまで一般的であった。メンタルコーチの教えが功を奏し、それまでの常識を覆すのか、それとも自国開催のプレッシャーに押しつぶされてしまうのか。W杯の舞台ではエディが重視する「キャップ総数理論」が大切なのか。これも楽しみなところである。

以上、一生に一度の熱狂に浸る前に、書き残しておいた。

上記の検証や振り返りは11月3日以降、ビールと40日間超の熱から醒(冷)めたら行うつもりである。

(調子に乗って大会途中で新たに投稿するかもしれません。)


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