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OUWN is : 会社入ったらオンラインMTGになってしまった、でもデザインクオリティをあげる「___」。そして、OUWNがレストランなわけ。

石黒:オンラインMTGが増えたことで、デザインのクオリティにも影響が出ているのか?そんなことを考えた時に思うことがあったので書いていこうと思います。

デザイナーの退化問題

オンラインMTGが増えたことで移動時間が無くなり、純粋にデザインをする時間が増えたので精度は上がったはずです。
ただ、精度が上がった分、提案が通るのかと言われたらそれはまた別の話でした。

逆に難しくなったことがあるからです。
その難しくなったことがデザインにとってとても大事なことで、クオリティをグンと下げる要因の一つになりかねないと思いました。

それは「相手との距離を把握」することです。

もちろん実際の距離では無くて、ここでいう距離は心の距離。
オンラインになったことで、相手の気持ちを汲みとることがとても難しくなりました。

そのまま油断していると、
デザイナーの力(勘や対応能力など)が退化するのではと思うので、
特に、新卒の子などには聞いてもらいたいと思います。

トーク力がある人には勝てない。

話はそれますが、自分はトーク力がありません。
説明も上手いわけではないので
ずっとデザインを見てもらうことでプレゼンを通してきたと思っています。

とあるプレゼンでは、提案した瞬間に満場一致でこの案で行きましょう!
即決して頂けたことがあります。

ただ、これには後日談があって、
提案前に行われた先方から自分へ向けてのオリエンテーションの後、
「石黒さんは質問もなかったし、この案件に興味がないんじゃないか?
まぁ、石黒さんは無しかな〜」
と言われていたらしいです。

いろいろ考えた上で質問をしていなかったのですが、
トーク力があれば世間話の一つでもはさんで、場を作れたかもしれない。

結果が良かったので、どんなもんじゃい!
と浸る気持ちもないと言ったら嘘になりますが、実際は最初から自分で自分の足を引っ張っているだけで、デメリットでしかないので、本気で治そうと思って数年がたちました。
でも、根本的にトーク力がある人にはどうしても勝てないのです。

克服することが改善策と考えないで

そのため、改善策をとることにしました。

プレゼン資料をデザイン部分の妨げにならない程度に説明的にし、最悪資料をそのまま読んでも相手に伝わるものにしたり、別でカンペを用意したり、案件によりますが資料を紙芝居のように構成することで、進行がブレずリズムをとりやすくしたり、資料をA4からA3に大きくし注意を引くなども効果がありました。

苦手克服には時間がかかるので、克服まではいかなくても、常にプレゼン方法をアップデートしながら苦手を軽減する手段です。苦手は軽減、自分の得意を伸ばすが最善です。

オンラインミーティングの限界

トークで突き通せない分、逆に長けていると思う部分は、その場の空気を読み解く力。

相手の服装や髪型などを見ることは皆自然としていると思うけど、特に重要になってくるのが、相手の目線、呼吸、指の動かし方などといった細かい所作です。そういったところから、相手の考えていることをできるだけ読み解いています。

例えば、相手の目線が一つ前の資料にいったのであれば、一つ前の資料と今提案している資料との違いを話をしたり、呼吸が一瞬ずれたのであれば、何か思うことがあったかもしれないので、一呼吸置いて意見を求めたり。
こちらの気使いが相手に悟られたら、逆に相手が気を使ってしまうかもしれない。それは避けたいので、できるだけ自然に瞬間瞬間で相手の身になって考えるようにしています。

これがなかなかオンラインmtgだとできないんです。

画面の向こう側じゃ、目が合うこともないし、呼吸なのか雑音なのか、何なら1秒くらいズレる時だってあります。

どちらかといえば良い案っぽいのが良い。

似たようなもので、現場がとっても大事なものといえば食事です。
オンラインでは食事の提供はできません。ご飯は電波に乗せれないので当たり前です。

僕がいろんなところで話しているのですが、

デザインという仕事は、レストランの接客に似ています。

食事を出す以前に、お客さんがお店に行き扉を開けると店員さんは挨拶をすると思います。席に着く前にはコートを預かるかを聞いて、椅子を引いてくれる。そこに一言気の利いた言葉を添えてもいいでしょう。四季にあった話や、天気の話をしてもいいかもしれません。

そうやって、食事の前に、一つの世界観を作り上げていくのです。

デザインも同じで、プレゼンの前には人となりを見られると思います。汚い格好の人から出される料理は食べたくないです。同じように、汚いダサイ人から出てきた良い案と、洗練された人から出てくる良い案は、きっと洗練された人の案の方がよく見えるはずです。

あのお店に行きたい!あのシェフの料理が食べたい!と思うように、この人が作るデザインだから、きっと素敵なデザインに違いない。そういった考えは、少なからずあると思います。

そして、レストランではその季節や気候に合わせた食材を使い、調理された最高の料理が運ばれてきます。きっと、シェフ、セコンド、ソムリエ、パティシエ、アシスタント、接客など、役割分担がはっきりしていて、その持ち場でそれぞれが最高のポテンシャルを発揮しなければ、最高の料理は出せないでしょう。誰かのスキルが上がれば、また一段そのレストランのレベルが上がっていきます。

デザインでは時代にあったアプローチを考え、紙や、文字といった食材を使って、相手の要望にあったベストなものを制作していきます。一つでは満足しない相手であれば、それも予測して複数の案を用意するのです。

至高の一品デザインの作り方

デザインを作り上げる工程でも、役割分担があります。OUWNのような少人数精鋭は、特にレストランに近いと思っていて1オーダーに、全員投下。アートディレクターが広げに広げ、デザイナーが深く潜り込む。追求できないデザイナーはあまり意味がありません。

深く深く細部まで詰めることがデザイナーの職務です。ディレクターは逆に、浅く浅く広く広く、同時に検証を重ねていく。アシスタントは、素材を大量に作り、それら全てが合わさって最高の一皿を作り上げていくのです。

・アートディレクターによって広い角度から練られた案は、香り立ち
・アシスタントによって検証を重ねた素材には、光が宿り
・デザイナーによって深く突き詰められたデザインは、奥行きが出ていきます。

これを何周かすると、もぅ太刀打ちできない完成された一品になっていくのです。


至高の一品そのものです。

デザインは国語の答えではなく、数学のように一つの答えが確実にある。

大きな器の真ん中に、ちょんと置かれた料理を思い浮かべてください。
器と料理には相性があるので、この料理にはこの器というものが、なんとなくの感覚では無く人間の持つ美意識の中に理として必ずあります。だから、この器にこの料理をこう配置すると美しい。という答えが必ずあります。

これもデザインと同じで、制作するビジュアルが掲載される場所を考えていきます。印刷される紙は、器の役目をしているかもしれません。

どのように余白をとり、どうやって配置するのが一番美しいか探っていきます。

料理に合わせて器も同系色でまとめたものは、シンプルな中にセンスを感じさせることができ、テーブルや前後の料理との組み合わせによっては、強い存在にもなります。グラフィックデザインにおいても、同系色でまとめると同じ感覚を再現できます。ショートケーキのイチゴのように、ワンポイントで目をひくアイキャッチとなる部分を作ることで、視線の誘導を促せますし、強いコントラストがPOPで明るい印象を与えることも出来ます。このように、料理のイメージが、そのままデザインのイメージに変換できるのです。

時代が変化しても、変わることのないショートケーキは、永く愛されるプロダクトデザインのようですし、暖かなメインディッシュは、冷めたら美味しさが半減してしまうように、鮮度が重要。加えて、見た目のインパクトも重要です。それはまるで広告のようだと感じませんか?

料理を口に入れた瞬間、美味しい!!!と純粋に感じると同時に、何の食材を使えばこんな味になるのか...と、考えを巡らせることもあるでしょう。グラフィックデザインにおいても、綺麗!かっこいい!という感覚と共に、新しい技術や手法・想像を超える数の検証を重ねて出来あがったデザインは、「どんな工程を踏めばこれができるのだろう。」という気持ちとリンクしていきます。

あの人が言ってた「現場で起きてるんだ。」

コース料理が全体を通して一つの物語になるように、デザインも一つの制作物ではなく、それがどう展開していくか。違うツールと組み合わさることで、どんな効果が発揮されるかなども考えています。

あのテーブルはお酒のペースが早いから水を出してあげよう。デートかもしれないから、話しかける回数を減らそうか。このテーブルは食事をするペースが早いので、キッチンスタッフと相談して次のメニューを早く出せるか相談しよう。出せないのであれば、ドリンクメニューをお客様に出して、時間を稼ぐのが良いかもしれない。ドリンクメニューを出すなら会話が途切れる瞬間を狙うようにしよう。でも、チラチラとテーブルを観ていたらお客様はリラックスできず、嫌な気分になるだろうから、そのテーブルに耳を傾け頭の片隅で意識しながら他の作業を進めようか。

そんな風に、デザインの現場も、場所、時間、季節、温度、相手、全てを認識することが、クオリティに繋がっていきます。

そうやって考えていくと、デザインも、OUWNという事務所も完全にレストランです。

ただ、OUWNはアルバイトがたくさんいて、システマチックに同じ味が表現でき、みんなを幸せにしているファミレスではないと思っています。どちらかといえば、あの街にある星付きのレストランです。

大きく話はそれに逸れましたが、それくらい現場というものはデザインにとって大事なのです。

これからの子たちが差をつけるチャンスとは?
視点の切り替えでパソコン前にいなくてもOK

ここでお伝えしたかったことは、現場主義という話ではなくて、オンラインに移行する中で、そういった現場で生まれる感覚が、退化することを避けなければいけないということです。気づきや気遣いは、デザインにとってかなり重要なものだからです。

これからの子たちはどうでしょうか?

昨年・今年に新卒でデザイナーになった人は、現場をしらず、オンラインしか経験していないということもあるでしょう。

それは逆に他と差をつけるチャンスかもしれません。オンラインしか経験していない時にこそ、気遣いに注目して頂きたい。現場がないのであれば、そういう目線でご飯屋さんにいくのも良いかもしれません。

接客や内装、特に店員さんの所作など、細部まで目を凝らすことがデザインに必ず活きると思います。自分は少なからず、そういった目線で食事をとることが多いです。

気づきを退化させないこと

僕は、かれこれ20年近くデザインに携わっているので、勉強や参考にデザインを観ても邪念が入りすんなり受け入れられないこともあって、食事など違った切り口から新しいインスピレーションが生まれることが多いです。料理を食べるのも作るのも好きだからというのもありますが、新しいデザインに確実に反映されていると思います。

こんな時代なので、どんどんお店に行こう!とは言いにくいですが、星付きレストランが、テイクアウトや、ケータリングを開始したり、営業自粛で夜営業の時間が限られるので、モーニングの時間帯にシフトして勝負するように、形態変化を考察するだけでも勉強になるはずです。

OUWNのことも、引き続き注目して頂けると有難いです。

OUWNも今の状況を前向きに捉え、星付きレストランのように形態を変えながら美味しいデザインを安心・安全に届けられるように、さらに進化して、前より強固になっていると思います。

気づきを退化させずに進んでいきましょう。違った切り口からでも、「気づく」ことは鍛えられると思います。それは、必ずデザインにいきていきます。

少し長い文章となってしまいましたが、オンラインMTGから日常まで横断しての「気づき」の大切さ、そしてOUWN=レストランことを書かせていただきました。読んでいただきありがとうございました。

Profile
石黒 篤史 ( Atsushi Ishiguro )
OUWNのクリエイティブディレクター。東京生まれ。佐野研二郎主宰のMR_DESIGNを経て、 2013年に「OUWN株式会社」を設立。アートディレクションから、グラフィックデザイン、サイン計画、web設計など多角的に企画立案製作に携わり、設立当初より継続的に国内外でデザイン賞を多数受賞。Design Workの他に「People and Thought.」といった、デザインを基軸に置きつつ、人の思考や現代の当たり前の感覚など、ベーシックとされてしまった思考に対して「疑問を見い出す」を、テーマにした芸術活動・展示・作品製作も精力的に行う。
Instagram : https://www.instagram.com/ai_ouwn/

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