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【本紹介】『保身 積水ハウス、クーデターの深層』

最近読んで面白かった本を紹介する。

数年前に社会に衝撃を与えた積水ハウスの地面師詐欺事件の経済ルポだ。

本事件についての概要は知っていたものの、詳細は知らなかった。暇つぶしになればいいくらいの軽い気持ちで読み始めたのだが、これが中々に面白い。巷の経済小説もすっかり色褪せてしまうほどに劇的で生々しい内容だった。

当初、地面師詐欺事件は、周到な詐欺集団の綿密な計画的犯行に、大企業がまんまと落とし込まれてしまったやむを得ない事件と思われた。

しかし、実情を明らかにしていくと様相がかわってくる。

詐欺集団の致命的なミスや、地主本人からの警告を何度も見過ごす、ありえない業務遂行の有り様が発覚する。

何度も本人確認により詐欺師を見抜くチャンスがあるにも関わらず、それを行わない怠慢。

地主本人からの通達を、根拠なく怪文書と決めつけ確認作業を行わない杜撰さ。

業界慣習から外れる小切手による金銭の受け渡しに違和感を感じない鈍感さ。

いくつもの危険信号を幾度も無視し、警察に社員が同行するおかしな状況に陥ってもなお、契約を最後まで履行してしまう。

そして、一連の業務責任を問われるべきは、社長にであるとの結論が調査対策委員会は結論づける。

しかし、さらにおかしなことが起こる。

社長が解職されると思われたが、一連の詐欺事件に業務上の責任はない会長が何故か辞任に追い詰められてしまう。

その裏には何があるのか。
権力にしがみつく人間の狡猾さや器量の小ささが随所に見え隠れする。

保身に走る大企業幹部の姿が、生々しく描かれている。

そして、日本企業の課題である「コーポレートガバナンス」の深刻さが指摘される。

陳腐な言葉で結ぶことになるが、事実は小説よりも奇なり、とはまさにその通りである。


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