「spring has come!」

若い頃、ファッション誌の春の号が出る頃になると、どの雑誌も毎年似たような特集だとわかりつつもわくわく待ちかねていた。
当時はバイトの最低賃金が数百円で、私が働いていた本屋も時給800円くらい。
週に数回数時間入ったとしてもたかがしてれている月給で、狙っていたお洋服に必ず購読していた雑誌たち、渋谷waveにしか置いてなかった60年代ポップスのCDやお昼ご飯、加えて数冊の「春号」を買うのだから、それはもうカツカツで、出たばかりのお給料が数日ですっからかん!なんてことが多かった。

不思議なもので、2月後半になると明らかに陽の色が春めいてくる。
昔、新幹線に乗っていたら山の色がパッキリ変化する地点があり驚くと、「そこから京都だから」と言われたことがある。
「京都の土はその周りの県のものと全く違う。だから筍も灰汁がなくて美味しいんだよ」と聞いたけど、まるまる信じてしまうくらい、ほんとにパッキリ、でも色みはうっとりするほどまろやかで淡い新芽の色に変わった。

それくらい唐突に、「あれ?冬の色が似合わない」と驚く日が2月後半にやってきて、まさにそれはお洋服が春物になる合図である。

深みのあるダークトーン、黒、焦茶、真紫に真紅、時々雪を思わせる純白が映える陽の色から、草色、ひよこ色、桜色にオフホワイト、芽生えの生き生きとして優しい色しか受け止めない光に、「瞬間的」と感じるくらい突然変わるのが、毎年不思議で毎年感動してしまう。(ぶどう狩りの帰りの高速でいきなり秋が深まるのと一緒!)

それに伴い春号である。
丸襟の白いブラウス、周辺を縁取るレースやフリル、タイツを脱いだ白い脚、三つ折りの靴下に編み込みの癖毛の髪、そして冬色より透明感があって軽やかな紅い口紅。

毎年、毎春、だいたい同じ。なんなら制服では?というコーディネイトや内容。
だけど空気の中に遠くでほころび始めたお花の匂いを感じると、求めずにはいられない。

恐ろしい速度で多くの情報が届く今、あの頃の私みたいな子たちはどうしているのかな。
流石に、冬の終わりに観る「来秋来冬のトレンド(A Wってやつ!)」には、速すぎてわくわくできないと思うのよ。

左のところ、唇ちゅっとした女の子みたい

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