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僕のリアル。

僕は家賃3万5千円の2DKの賃貸アパートに住んでいた。

田舎と言っても、2DKで家賃3万円代は破格と言えるだろう。

部屋の中には、ベッドと本棚とテレビの前には小さなガラスのテーブルが一つ。

書斎に使っている一部屋には書斎机とその上にノートパソコンが一台。

部屋にはカーテンは無い。朝になれば、太陽の光が目覚まし時計代わりだ。

テレビの中では、お笑い芸人がパイを顔にぶつけ合っている。

会場の観客がそれを見て笑う。

だが、それはテレビの中の現実味の無い僕とは無関係な話。

僕はテーブルの上に置いてあるルイボスティーのグラスを床に落としてみた。

グラスは白い絨毯の上で倒れ、ルイボスティは零れ、絨毯に染みとなって広がって行く。

「あっ!」

これはバラエティ番組のパイじゃない。

お茶を零せば、リアルに床は汚れるし、リアルに慌てる。

そうやって時々、僕は絨毯の上にお茶を零したりする事で、自分の世界のリアルをテレビという錯覚から目覚める為に、わざとする。

テレビドラマで逆上した主人公が、机の上の物を洗いざらいひっくり返したりするのを見て、何の感情も抱けないで、感覚が鈍磨していく僕を、そのお茶を零すという行為は、ハッと我に引き戻してくれる。

たったそれだけで、僕の現実はリアルになる。

大事に至らないように僕は、現実に現実味を覚えなくなると、そのような行動を始める。


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