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僕はおまえが、すきゾ!(43)

電話のコール音は数十回、鳴り続けた。僕は携帯を持つ手をブランと下に落とした。その時、電話が繋がった。
「もしもし、もしもし」
その声は男の声だった
宏人は、咄嗟に電話を切ってしまった。宏人
赤い丸ボタンを何度も何度も、タップして電
話を切った。その光景を優作も古賀さんも凝
視していた。
「何?どうだったの?」古賀さんはうろたえ
ている僕を見つめながら、落ち着いた声で言
った。
「男が出た」
「え?」優作と古賀さんが同時に言った。
「男が出た」宏人は泣き出しそうに言った。
「誰だろう」優作は呟いた。
もう一度、電話するようにと古賀さんが言っ
た。僕はもう一度なんて、油科さんに電話な
んか出来ないと懇願した。
古賀さんは今度は自分の携帯で油科さんに電
話をした。
何度もコールしたが、油科さんは電話には出
ず、留守電に繋がった。
「油科ちゃん、みんな、心配してるの。電話
に出て」
古賀さんの伝言も空しく、電話は切れた。三
人は顔を見るばかりで、次の行動が選べなか
った。しばらく三人の間に沈黙が続いた。
「どうしよう……」
僕はどうすればいいのか、頭の中が真っ白に
なっていた。
「どうしようって……」古賀さんもどう答え
ていいのか、分からずに言った。
その時、宏人の電話の着信音が鳴った。
すぐさま宏人は、通話の緑ボタンをタップした。油科さん本人だった。
「武田さん……」
油科さんの声は小さく、今にも泣き出しそうだった。
「油科さん、今、何処にいるんだ?」
宏人は幾つかの言葉を油科さんと交わし、電話を切った。
「生きてた……。油科さん生きてた」
優作も古賀さんもドッとその場にへたり込んだ。油科さんは今、自分のアパートにいるらしかった。油科さんはついさっきの電話で出た男の話はしなかった。
「じゃあ油科さんの家へ行こうか」優作が古賀さんに同意を求めるように、言った。
「ううん、武田さん、一人で行くべきよ」古賀さんは厳しい目をして、言った。
心細さを封印して、僕は頷いた。
 
 
 
 

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