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存在意義を問い直す

10年近く会社を経営していると、当然ながら浮き沈みがあり、倒産の危機に直面したことは何度もあります。

銀行口座の残高が減り続け、数日後にはいよいよ資金が底をつき、給与も支払いもできなくなると分かったとき、まるで金縛りのように全身が痺れて動けなくなります。あの感覚、今でも鮮明に思い出すことができます。

お金がないとき、人間は本当に碌なことを考えません。「私物を換金して凌ごう」とか「暗号通貨で一発当てよう」とか、短絡的な思考で頭がいっぱいになってしまいます。とてもじゃないですが、未来のことなんて考える余裕はありません。前回の投稿とは違った、文字通り「崖っぷち」の状態です。

ああいう思いは、できれば二度と経験したくないものです。

2023年は企業倒産の増加ペースが早まる

帝国データバンクが発表している倒産集計一覧によると、2023年5月の倒産件数は694件で、13カ月連続で前年同月を上回っています。4カ月連続で前年同月から100件以上増加したほか、5月単月で600件を超えたのはコロナ禍前の2019年以来4年ぶりです。

【参照】2023年5月倒産集計一覧(帝国データバンク)

業種別に見ると、焼鳥店などを含む居酒屋の倒産が、前年から4割増で推移しています。コロナ禍の時短協力金や補償金、雇用調整助成金などの手厚い公的支援が打ち切られたことに加えて、コロナ融資の返済期限が到来したことなど、資金面での負担が大きく影響しています。

また、「家飲み」の定着による宴会需要の減少、原材料やエネルギーの価格高騰、人不足解消のための人件費確保など、外的環境の変化も大きな要因になっています。

こうした幾重もの経営課題が折り重なるなか、事業継続をあきらめる経営者が増加、2023年後半にかけて企業倒産の増加ペースは早まると予想されています。

会社が倒産する理由

会社はなぜ倒産するのでしょうか?

最も多い倒産理由は「販売不振」です。2023年5月に販売不振で倒産した企業は549件(前年同月389件、41.1%増)で、全体の79.1%を占めています。

販売不振とは、シンプルに売上が減少し、資金繰りが難しくなる状態です。会社を存続させるためには、一時的な売上だけではなく、常に売上をあげ続け、利益を出し続ける必要があります。

会社員であれば毎月定額が口座に振り込まれますが、事業の場合は今月の売上がいくらで、それがいつ入金されるのかは、業態や決済方法によって変化します。

例えば小売業であれば、売上が立つ前に商品を仕入れた代金を支払う必要があるかもしれません。また、クレジットカードで決済された売上は、一ヶ月以上経ってようやく口座に振り込まれるというケースも珍しくありません。

BtoBの事業であれば、請求書を発行して一ヶ月後に入金というサイクルが一般的です。これが手形取引になると、数ヶ月経たないと換金できないといったこともざらにあります。

会社はこのタイムラグを、手元の資金で凌がざるを得ません。そして、事業の規模が大きくなるほど支出が増え、入金サイクルが長い取引も多くなります。そのため「売上は伸びているのに資金に余裕がない」といった苦しい状況が生じてしまいます。

そんな折に、コロナ禍や物価高騰のような不測の事態が起こり、一時的にでも売上が減少してしまうと、儲かっているにも関わらず事業の継続が困難になり、黒字倒産という事態になってしまうこともあります。

儲かっていようがいまいが、会社は常に倒産のリスクと背中合わせに経営されているのです。

茹でガエルになっていないか?

販売不振に次いで多いのが、「既往(きおう)のしわ寄せ」です。

過ぎ去った時。過去。また、過ぎ去った物事。すんでしまった事。

既往(精選版 日本国語大辞典)

あまり聞きなれない言葉だと思いますが、少しずつ悪化している経営状況に気づかず、何の対策も行わなかったことで破綻するというケースです。

経営状態が悪化し続けているにも関わらず、現実を直視せずに具体的な対策を講じないまま、過去の資産を食い潰してくことで倒産を招きます。いわゆる「茹でガエル」状態のことを指します。

茹でガエル(ゆでがえる、英語: Boiling frog)とは、緩やかな環境変化下においては、それに気づかず致命的な状況に陥りやすいという警句。生きたカエルを突然熱湯に入れれば飛び出して逃げるが、水に入れた状態で常温からゆっくり沸騰させると危険を察知できず、そのまま茹でられて死ぬという説話に基づく。茹でガエル現象(ゆでガエルげんしょう)、茹でガエルの法則(ゆでガエルのほうそく)とも呼ばれる。

茹でガエル(Wikipedia)

この倒産理由のポイントは、長い期間をかけて業績が悪化していることで、老舗企業が時代の変化に対応できず、徐々に業績が悪化して倒産するケースもこれに当たります。

日本の実業家である松下幸之助の言葉に、以下のようなものがあります。

人間、ともすると変わることに恐れを持ち、変えることに不安を抱く。
しかし、すべてのものが刻々とも変化する今日、現状に案ずることは、即、後退につながる。今日より明日、明日より明後日と、日に新たな改善を心がけよう。

何も手を打たないということは、すなわち現状維持を意味します。しかし、ビジネスにおいては、現状維持を選んだ時点から後退が始まるのです。

目まぐるしく変化する世界のなかで、自社だけが変化せずに生きながらえることは不可能です。これは、会社に限った話ではないかもしれません。

自社はなんのために存在するのか?

自社を必要としてくれるお客様と出会い続け、社会に必要とされ続けない限り、ビジネスは衰退していきます。

業績が悪化しているという状態は、自社の存在意義が薄れていると表現することもできます。取引先や消費者に求められていない商品やサービスしか提供できない企業が、方針を変えずに生き残っていくのは難しいでしょう。

もし、創業当初からずっと販売不振である場合は、自社の存在意義が浸透していない、すなわちビジネスが軌道に乗っていないと考えてよいでしょう。ひょっとして経営者自身にも、まだ自社の存在意義が見えていないかもしれません。

そもそもなぜ事業を継続したいと願うのか、それは誰のためなのか?取引先や消費者も同じように、自社の存続を願ってくれるだろうか?

昨今、パーパスという言葉がバズワード化していますが、自社の存在意義を明確にし、どのようにして社会に貢献するかを定めて、それを経営の軸として事業を行うというパーパス経営の考え方は、シンプルで矛盾がないと思います。

「パーパス経営とはなんでしょうか?」より抜粋(中小機構)

上手くいっていないときこそ、自社の存在意義を問い直すチャンスです。せっかく作った城を潰さないように、お互い頑張りましょう。

では。

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