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第10回 商業デビューへの道~その一~

「残念ながら四次選考のほうは通過できなかったわけですが、原稿を読ませていただいた結果、ぜひ私どもと一緒に作品を書いていただけないかと思っています」

 さすがに正確なセリフは忘れてしまったが、後に担当編集となるA氏からの電話の内容は、このような感じのものだった。

 これはもう受けざるをえない。そう思いつつも、突然のことで若干のパニックを起こしており、自分がつい返した言葉は、

「ちょっと考えてから返事します」

 だった。

 あまりにも嬉しすぎて、何も考えずに飛びつくのが怖かったのもある。もう一つには、自分の実力だ。結局は四次選考落ちであるという事実は変わりがない。賞を取ったわけではない。そんな自分に、果たして商業ベースで耐えられるだけの作品が作れるのだろうか、という一抹の不安もあった。

 だけど、最終的には、とにかくやるしかない! の精神で、話を受けることにした。

 A氏に折り返しの電話をかけ、

「ぜひよろしくお願いします」

 と携帯電話を持ちながら、相手には見えないのに、頭を下げた。そんな自分に対して、A氏はさっそく釘を刺してきた。

「ただし、もちろん、賞を取れなかったわけですから、作品をそのまま出すというわけにはいかないです。改稿が必要になる。もう一度応募したら大賞を取れる、くらいの作品を作る気持ちで臨んでもらいたい」

 それは至極当然の話だと思った。

「そこで、さっそく編集部のほうで打ち合わせをしたいのですが、○月○日は空いていますか?」

 来た! と心の中で快哉を叫んだ。

 出版社の編集部で打ち合わせ。それは、小説家を目指す者にとっては何よりも憧れのシチュエーション。

「大丈夫です!」

 手帳でスケジュールを確認した自分は、力強く答えた。全身にエネルギーが満ちあふれているかのような活力を感じていた。

 ※ ※ ※

 そして打ち合わせの日になった。

 時間は会社の仕事が終わった後で間に合う時刻にしてもらっていた。

 定時になった瞬間、荷物を急いでまとめて、会社を飛び出した。大事な初回打ち合わせなのだから、絶対に遅刻は許されない。興奮と緊張とで、心臓がバクバク鳴りっぱなしだった。

 飯田橋駅で電車を降りてから、まっすぐにカドカワ本社ビルを目指した。この調子ならちょうど10分前には着く。バッチリだ。

 ビルに到着したところで、何人かの人達が外へと出てくるのとすれ違った。訪問客なのか、それとも社員なのか。もしかしたら将来一緒に仕事をすることになるかもしれない。そんな妄想も働かせてみたりした。

 一階で受付を済ませた後、エレベーターで編集部のある階まで移動した。

 内線電話で来訪を告げた後、しばらくそのフロアの受付で待たされた。ちょっとうろ覚えであるが、受付周りには電撃文庫に関連する書籍やグッズが置いてあったと思う。いよいよ現地に乗り込んだのだ、という実感が湧いてきて、ますます興奮したのはしっかりと憶えている。

 やがて、案内の人が来て、編集部へと通された。

(おお、絵に描いたような光景!)

 出版社の編集部といえば、書類が山積みになっていたり、何だかわけのわからないグッズが散乱していたりと、とにかく汚いイメージがあるが、失礼を承知で言うなら電撃文庫の編集部もほどよく散らかっている印象だった。そこにまた興奮させられた。

 一番奥の打ち合わせブースへと通された。すでに他の作家さんが隣のブースで打ち合わせをしており、会話の内容が聞こえてくる。とうとう自分もこの世界に足を踏み入れたのかと気持ちが昂ぶってきていた。

 そして、A氏がやって来た。

 私が賞に出した原稿も小脇に抱えている。

 挨拶と雑談の後、さっそく打ち合わせに入った。

 基本的には『バニィ×ナックル!!』をベースに、設定や文章を見直して、商業ベースの作品へと向上させる。新たに一から何か作品を書くわけではない、とのことだった。

 確かに、『バニィ×ナックル!!』は余分なキャラや設定もあるので、そこらへんのブラッシュアップは必要だと考えていた。でも、そのあたりの整理さえ出来れば、より完成度の高い作品になると思っていた。それぐらいなら簡単な作業で済む、と考えていた。

 ところが、そこでA氏から出された意見は、私の甘い考えを叩きのめす厳しいものだった。

「バニーガール、というのがよくないですね」
「え?」
「ほら、どこかオッサン趣味じゃないですか。いまの中学生や高校生くらいの子達にはウケが良くない。バニーガールの設定を変えたほうがいいですね」

 まさかの一番の特徴的な設定を変えたほうがいいという話になった。

 バニーガールの格好をした女の子達が戦う、というのがポイントなのに、その根本を変えろというのだ。私が大いに戸惑ったのは言うまでもない。

 この時から、最終的に『ファイティング☆ウィッチ』の形となるまで、苦悩のプロット作りと改稿の日々が始まったのである。

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