故郷

4時間半。長いようで短い故郷への旅路である。バスターミナルで忙しなく行き交う人々。発車時刻ギリギリで乗り遅れまいとする人。愛する者としばしの別れを済ます人。私のように旅行カバン片手に発車時刻を待つ人。皆一様にそれぞれの旅を始めようとしている。私は旅のお供にと買ったペットボトル飲料を口に含む。場内のアナウンスが故郷行きのバスの到着を告げると私は颯爽と運転手に乗車券を預け、バスのシートに腰をかけた。

その後間もなくバスは出発のクラクションを鳴らす。私は旅路が退屈にならぬよう、イヤホンを耳へ、そしてお気に入りの曲を流す。ドライブに合うようにとプレイリストを事前に用意していて正解だった。車窓から街の景色を眺める。あいにくの天気と街の灰色が相まってか、空と街の境界があやふやになる。次第に周りは山中へと姿を変えていった。それと共に私の意識は徐々に夢の中へと誘われていく。車内であまり眠れない私にとっては珍しいことだなぁと思いながら眠気に身を委ねる。

一頻りの睡眠を経て、私が目覚めたのはとあるサービスエリアであった。休憩時間を終えてゆっくりと発車するバス。少しのうたた寝を交えつつ、ふと故郷へと思いを馳せる。両親は元気だろうか、久しぶりに会う旧友は変わりないだろうか。高揚感、なのか。そんな気持ちが湧き上がってくる。早く会って、何気ない話を聞いてくれ。その代わりにあなたの話もちゃんと聞かせてくれ。街の景色は変わっていても、どうか変わらないでいてくれと私は再び瞼を閉じる。あやふやにならぬ故郷への思いを胸に秘めながら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?