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バルセロナの市役所で聞いた「相手への感謝を伝わりやすくする二つの方法」の話

 グラシア地区の市役所に行くと、すでに長い列ができていた。とはいえ、これが市役所の列なのか分からない。前に並ぶ女性に聞くと「そうだ」と言うが、英語が通じないので、質問を理解してくれているかがよく分からない。念のため別の人に聞きに行っている間に、列は少し伸びていた。

 二十人くらいの列に並んで待つが、することがない。前のおじさんに話しかけ、英語が分かるか聞くが、分からないらしい。すると、おじさんに「Korean?」と聞かれた。「Koreanじゃないけど、ほんのちょっとだけ韓国語分かるよ」と言うと、奥さんが韓国人なのだと言う。

 近くのベンチに座って待つ奥さんに「チョヌン ハンゴルル コンブハゴイッソヨ(=私は韓国語を勉強中です)」と言うと、うれしそうに笑顔を見せる。おじさんは奥さんに代わりに並ぶように話したようで、どこかへ行ってしまう。その間、私は奥さんと話しながら列を待つことになった。

「英語使うの久しぶりだから、なかなか出てこないわ」
 という奥さんに、韓国でお寺泊まりをした体験や、韓国人の友達からいくつかの韓国語を習ったことなどを話す。

「悪い韓国語なんかも習ったんですよー。オッチョラゴ(=なに見てんだよ)とか」

 そう言って笑いあっていると、列はどんどん進んでいく。

「三ヶ月もバルセロナにいて、言葉も通じないでしょう?困ったこととかなかったかしら?」
「ううん、そうですね。バルセロナ空港に着いた時間が二三時過ぎだったんですよ。だから、そこからギャラリーまで自力で行かなきゃいけないときだけ、ちょっとドキドキしました。だって、真っ暗だし、何も分からないし」
「あら、ほんとに。大変だったわね、自分で来られたの?」
「いえ、空港からカタルーニャ広場までの直通バスを待っている時に、前に立っていたおじさんに話しかけたんです。その人が助けてくれて。その後もいろんなことを教えてくれるし、すごく助けられてます」
「それはいい出会いだったわねー!」
「はい、本当に。いただいてばかりで、どうやって恩返ししたらいいだろうって考えちゃうんですけど」
「そうね、まず一つは、本当にうれしいことを伝えることよね。本当に感謝してること」
「はい、うーん、でも難しい。本当に相手に伝わっているかどうかって、どうやったら分かるんでしょう。言葉で、Muchas Gracias(=どうもありがとう)って簡単に言えちゃうことだから、どこまで本気なのか、言われる側になった時も分からない時がありませんか?」
「フーム、そうね。そしたら、二つのことをアドバイスするわ。一つはね、本人以外の人に、その人の素晴らしさを伝えること。自分で自分のことを素晴らしいって言う人はあんまりいないでしょう。誰かの言葉で聞くと、真実味が増すし、言われる人も嬉しいものだから。
 もう一つは、どういうところに感謝しているか、細かく伝えること。『今日はありがとう』じゃなくて、『今日は一緒に市役所で話してくれてありがとう、時間が飛ぶようで、すごく楽しかったわ』って」

 私は細かくうなずく。私がされたとしても、素直にうれしいことだ。

「それはいいですね!それなら今の私にもすぐできそうです」

 話しているうちに順番が来た。市役所の人は英語が話せなかったけど、韓国人の彼女が心配して近くに立っていてくれた。

「大丈夫だった?」
「はい、あなたと会えて、話せてよかったです。ありがとう」

 そして、私は彼女の夫に声をかける。

「彼女は私にすごく親切にしてくれたの、私にはBig helpだった。ありがとう」

 彼女と抱きしめ合って別れるとき、彼女はうれしそうに眩しい笑顔を見せた。出会って、話せたことの感謝が、ちゃんと伝わったようだ。

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