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アートを通じて社会を知る~現代アートと難民問題について

「難民」という言葉にどんなイメージをもっているでしょう?
日本で暮らしていると「難民」に出会う確率は非常に少ないです。日本ではそもそも、難民の申請があっても「難民」と認定されて保護される率が非常に少ないのです。

スペインのマドリードに行った際には、建物に「WELCOME REFUGEES」の垂れ幕がかかっているのを見かけたことがあります。少なくとも私は、フィンランドで実際に彼らと直接話すまでは、なんだかコワイ存在のように感じていました。

今回はフィンランド、マンッタにあるセルラッキアス美術館で開催中の「CLOSING BORDERS」展と共に、アートと社会問題についてご紹介です!

日本とフィンランドの難民事情

難民支援協会の記事によると、2016年、日本での難民申請者は10,901人。そのうち認定者は28人。

1億人以上の日本の人口を考えると、日本で難民に会うことは奇跡に近いと言えます。ところが私は2017年にフィンランドのトゥルクで一度、マンッタでも実際に難民として避難してきた人たちに出会っています。トゥルクでは、フィンランド人と一緒にみんなでバーベキュー中でした。実際に話す前に思ってたイメージと比べて「あ、思ったより普通だ」というのが私の印象だったんです。

✓ 参考リンク  日本の難民認定はなぜ少ないか?(難民支援協会) 北欧諸国への難民申請者数が減少、最も激減したのはノルウェー。ポピュリズム効果?

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フィンランドでは2015年に申請者が3万人をこえ、2016年には5275人と激減したものの、日本よりもはるかに受け入れ人数は多いです。

彼らは主にどこの国から来ているのでしょう?

外務省のページによると、2015年の段階では、シリア、アフガニスタン、ソマリアからの難民が多く、さらに南スーダン、スーダン、コンゴ民主共和国とつづいていました。

しかし、この難民保護のために税金が使われているのは想像がつきます。フィンランドの失業率は2018年で7.5%、2019年で6.54%(下がってきてはいる)。日本は2019年9月で2.4%。なぜ難民を受け入れるのでしょう、また問題は起こってないのでしょうか。

✓ 参考リンク  難民の出身の多い国(外務省) 失業率の推移(1980~2017年)(フィンランド, 日本)

フィンランドの美術館の学芸員さんに聞いたところ、日本と同じくフィンランドも高齢化が進んでおり、税金を納めてくれる労働力を必要としているらしかったです。

でも、当然のことながら、その受け入れについては賛否が分かれています。実際にフィンランドで難民申請中の人(イラン人)に聞いたところ、避難する国は自分で選ぶことができ、フィンランドを選んだのは教育制度が充実しているからだと言っていました。

現在は8人のドミトリー暮らし。国は選べるが、どこの町に暮らすかは国が決定するみたいです。行き場がなく困っている人たちと、もともとその土地に暮らしている人たちの間で軋轢はないのでしょうか?

難民が前年より850%増えたという2015年にはヘルシンキで受け入れ反対のデモも起こっています。また、フィンランド人の年配女性が若い難民の男の子を「買う」という事態も発生しました。

✓ 参考リンク  難民流入急増で賛否デモ フィンランド フィンランドの年配女性 若い難民相手に20ユーロで買春

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Serlachius Museumで「CLOSING BORDERS」展

2017年2月4日から、フィンランド、マンッタにあるセルラッキアス美術館で、難民や国境問題をテーマにしたRiiko Sakkinenの展覧会「CLOSING BORDERS」が開催されている。2016年、Riikoさんと美術館のディレクターであるPauli Sivonenさんは、一緒にヨーロッパの「国境」を旅した。国と国とを仕切る高いフェンスの間の、人のいないエリア。そこにたくさんの難民がテントを張り、どこに行くこともできずに暮らしていたという。

✓ 参考リンク  CLOSING BORDERS(Serlachius Museum)

政治的な問題をテーマに扱っているアーティスト、Riiko Sakkinen。この展覧会にあたり、彼は自分がどんなヨーロッパ、どんな世界に住みたいかについてコメントを寄せている。

I want a world where there are no borders and where people can freely choose their place of residence. I want a world where people have the right to move but, above all, the right not to move. I want a world where no-one has to leave home because of war, violence, persecution or poverty.
(私は国境がなく、誰もが自由に住む場所を選べる世界を希望する。移住する権利をもち、とりわけ移住しなくていい権利をもつような世界。戦争や暴力や迫害や貧困により、誰もふるさとを離れることがないような、そういう世界を私は欲する。/Ouma訳)

Europa Sneakers/フェンスを越えるのに必要な靴

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スペインとモロッコにある国境のフェンスを越えるため、難民は靴にフックをつけるそうです。フックをつけないと、フェンスの穴が小さすぎて登れないからだとか。

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旧約聖書によると、靴は価値のないものの象徴、新約聖書によると靴を脱ぐことは謙虚さを意味します。

イスラム圏では靴は汚れの象徴であり、そのためにイスラム教徒はモスクに入る前に靴を脱ぎます。ギリシャ文化では空っぽの靴は「死」を意味します。(作品の解説文より)

Welcome Refugees/さまざまな職業を用意してお待ちしています。

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Conguitosというのは、スペインのお菓子ブランド。スペインのキオスクでは必ず売られているし、ブランドのマスコットとしてあちこちに並べられています。Conguitosが抱えているボードには、さまざまな職業が書かれています。

「家政婦」「ゴミ回収人」「ベリー摘み」「売春」「屋台商人」「工事労働者」

もともともっていた教育や技術に関わらず、難民に用意されている職業は限られている(作品の解説文より)

Immigrant Baggage/スーツケースの中身は?

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8歳の子がスーツケースに入って入国を試みたが、モロッコとスペインの間にあるCeutaの国境で発覚しました。彼の父はスペインで暮らしているが、家族ビザ申請は却下されたばかりでした。(作品の解説文より)

全人生のうち「1」の力が起こすこと

「CLOSING BORDERS」展ではほかにも、NGOとビジネスの関係を表象したタオルや「2017年鉄のカーテンベスト10」などの作品が発表されていました。

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美術館内の他のエリアでの展示では、タイトル、素材、制作年のみだが、社会問題を取り扱っているだけあって、「CLOSING BORDERS」展では一つ一つの作品に詳しい解説が添えられていました。

テーマがテーマだけに、見る人が「なんか人形いっぱいいたー」で終わってしまってもしょうがなくて。解説があるため、こういう状況が今、自国にあるんだと知ることができるってとてもやさしいなぁと思うのです。

特に日本では難民の受け入れが厳しいので、日本人にとって難民問題は全く身近ではないですよね。でも、こうして展示を通じて、こういう問題が「世界」のどこかでリアルに起こっているのだと「安全」に知ることができます。

こちらで会ったオーストラリア人のアーティストさんが、広島の原爆ドームを訪れたことがあり、「悲惨、こんなことが起こってはならない」と言っていました。しかし、その問題の渦中にない人は、知ったからと言って日々何かをするわけじゃないです。

日本人である私が毎日、福島のために何か行動を起こしているわけではないし、直接、難民と話した私がこれから難民問題解決に向けてできる行動をとっていくのかと言ったらそんなことはないです。

私は私のことに忙しく、それ以外のことに大きく時間を割くのは難しいから。それでも、自分の人生の中で「1」だけのアクションを起こすことはできるんですよね。全人生の中のほんの「1」だけ。その「1」が、私にとってはこの記事です。

もし、人類70億人が「1」だけ手を貸したとしたら、それは「70億」分のエネルギーってこと。それはきっと、「世界」を変えるような気がする。しませんか?笑。

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アートはこうして、「『それ』が自分事でない人たち」と「『それ』が自分事な人たち」をつなぐ役割も果たしているのです。アートは究極のエンターテイメントだから、「問題」を楽しんで身体に取り込むことができます。

両者が手をつなげる場が「アート」として提供されるというのは、本当に素晴らしいことだと思うのです。

さて、冒頭でRiiko Sakkinenさんが暮らしたいといった「世界」。

(私は国境がなく、誰もが自由に住む場所を選べる世界を希望する。移住する権利をもち、とりわけ移住しなくていい権利をもつような世界。戦争や暴力や迫害や貧困により、誰もふるさとを離れることがないような、そういう世界を私は欲する。/Ouma訳)

あなたはどんな「世界」に暮らしたいですか?

その他のアート関連情報はこちらから。

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