マンガを売るってけっこう世界平和につながるよねっていうおはなし

アルという会社がある。
https://alu.jp/

マンガ情報がまとまっているサイトなのだけど、なんの会社かと言ったら、「マンガをひたすら売ることでマンガに関わる人を幸せにしようとしてる会社」なのです。

もともとなんとなくマンガは読むほうだったのだが、アート活動のために海外に行くようになってから、マンガというのはコミュニケーションツールという意味でも、とても使えるものなのだなと知ることになありました。

というのも、日本人は「日本人全員がマンガが好きなわけじゃない」ことを知っているが、海外のマンガ好きにとっては、「マンガの国から来た日本人は全員マンガ好き(最低でも知っている)」だから。

海外でこんなに知られているのだから、当然、原産国である人たちはよく知ってるに違いないと。

なので、日本人だと割と「マンガネタ」で話しかけられるのです。自分は旅行で海外滞在しているわけではなく、アーティスト・イン・レジデンスというアートのプログラムで現地滞在しています。

期間も数週間~半年とそこそこ長く暮らしているのだけど、マンガの話についていけることが割といろんな場面で役立っていました。英語の苦手さをマンガの知識が補ってくれたのです

同じプログラムに同時参加しているアーティストさんも多いのだが、私は英語がとてもヘタなのです。

複数人で話をしているととてもついていけないし、ネイティブの英語はスラングすぎてよく分からないし、長い英文は途中でぼーっとしてしまってよく抜けがちです。

私は言葉を映像で理解する人なのですが、英語だとその映像が全く見えないのです。映像化できないことは記憶ができなくて、話しているそばから忘れてしまう。会話の瞬間は理解できるのだけど、会話が進むと3言前に何を話したか分からなくなってしまうのです。

日本語なら映像化しながら話せるから会話が成り立つが、英語だと「今さっき話したのに!」と怒られる展開になったこともありました。

ありがたいことに一人作業が好きなタイプなので、それはそれで苦なわけではないのですが、たまには話してみたいこともあるし、大勢の中でいつも一人だと周りが気にすることもありました。

そういう時に助けになったのがマンガでした。海外のマンガ好きが好きなマンガについて語っているのを「なるほど、うんうん」と聞いているのは楽だったし、知っているマンガならそもそも脳内で映像化しやすいので、割と会話ができました。

相手が長々しゃべっているのを聞きながら、たまに「このへんとか日本語難しくないの?」と合いの手を入れればいいだけで成り立つので、会話も楽でした。

ある時はジャズマンガの「Blue Giant」を音楽家の友達に勧めながら、こんな会話をしました。

「音楽マンガって音はぜんぜん聞こえないわけじゃない? 村上春樹とかもよく音楽出てくるけど、分からない人はぜんぜん分からないんじゃないかな。音楽分からなくても楽しめるもんなの?」
「あー、村上春樹はジャズ好きだからジャズの細かい話多いよね。このマンガはさ、音楽が見える感じなの。絵で音楽を感じる、みたいな」
「へええ」

マンガやアニメを通じて、海外の人の視点を知るというのもおもしろいのです。ある人は「もののけ姫」の善悪がはっきり分かれてないところが素晴らしいと言っていて、「ほとんど完璧な作品」と絶賛していました。

善悪二元論の世界観に慣れていると、何かを悪にしない手法というのは、とても意外に感じるのかもしれません。

フィンランド北部の中学校にアートのワークショップをやりに行ったときには、女の子たちがアニソンを熱唱しながら歓迎してくれました。なかなかアジア人が来ないエリアなので、日本人自体が珍しく、私自身がマンガを描くわけではないのだけど、マンガの国の人が来たのがうれしいと言っていました。

歌ってくれたアニソンは何一つ私の知ってるものはなかったですが、彼女たちがそれをとても好きなのはよく伝わってきました。

フランスでも大人気だという「進撃の巨人」は、「Shingeki no Kyojin」で通じたし、「殺せんせー」は「Kolo sensei」で通じました。

フランスの30歳以下の若者はだいたい「聖闘士星矢」で育ってるんだとか。バルセロナでは20代の女の子に「ドラえもんは小さい頃から見てた。ドラえもんはもうバルセロナの文化よ」と言われたこともあります。

2019年夏に日韓関係が悪化しまくった時、韓国にいました。近くにマンガ図書館があって、韓国語訳された日本のマンガがたくさんありました。

 図書館内ではコナンくんのグッズがたくさん飾られていて、館内では殺人事件が起きた設定で謎解きしてみよう!みたいなコーナーもありました。

その図書館は韓国人の女の子が教えてくれた場所で、彼女はそこがとても好きだと言っていた、それがとても嬉しかった。時期的に日韓関係がきつかった時の言葉だったので、自分にはより響いた気がします。

戦時中の上海を舞台にしたマンガ「星間ブリッジ」のことは、上海人の友達から教わりました。中国語版がないから読んだことはないみたいだけど、上海が舞台になってるので、中国のニュースかなんかで知ったと言ってました。

もともと政治経済歴史にはあまり興味がないほうでしたが、日韓関係悪化が日常に影響するようになってきたので、2019年の7、8月頃は、韓国系の新聞をやたらと読みまくりました。

ハンギョレ新聞というのが最も韓国寄りだという話を聞いたので、一番読みまくったのです。反対側の意見を聞かないと、物事がよく見えてこないような気がしたから。

日本人が歴史を学んでいないという話も確かに聞きます。実際にそういうところもあると思うのです。でも、真実の歴史を全部把握している人ってどれだけいるだろうか、とも考えるのです。多くの人はその時の周囲の意見に流されて、周りの人が言っていることと合わせているだけなんじゃないかなって。

その上であえて問いたいのは、じゃあ歴史をしっかり学んでいるとして、それを次世代にどう遺していきたいのか、ということ。

私自身はなんとなくアジアの人たちへの罪悪感みたいなのを抱えていて、そのせいもあって実際に訪れる前には韓国や中国のことをとても恐れていました。いじめられちゃわないかなという怖さがありました。

でも、実際はそんなことがなかったし、韓国も上海も、今はかけがえのない故郷のひとつのような感覚があります。行動の制限になるような偏見ではなく、平和的な何かを次世代には遺したいなと思います。それは日本に限らず。

中国から来てそうな漢字だって、電化製品の名前などは日本から言葉が輸出されていると聞きました。「カワイイ(可愛)」も中国産ではなく、日本産の言葉(概念)で、今は中国でも使われているのだそうです。それは中国人の友達から聞いたこと。

彼らはマンガがとても好きで、マンガのおかげで日本語がけっこう話せました。Kindleの本棚を見せてもらったら、日本のマンガ本でいっぱいになっていて、自分が知らないのもいっぱいありました。

実際に戦争に直接かかわった人たちにとってみたら、まだまだいろんな想いがあることも確か。でも、私自身が何かをしたわけではないから、今を生きる世代として次に遺したいなと思うのは、人種によって偏見をもったりもたれたりしないこと。

日本のマンガはシンプルにおもしろいです。マンガが嫌いな人は単に読まないだけなので、たぶん、マンガを嫌いな人っていなくて、好きか興味がないかのどちらかみたいな感じになります。

マンガを好きな人は合わせて日本も好きになってくれると思うのです。自分の好きなものの原産国にはポジティブなイメージをもちやすいと思いませんか。マンガが好きゆえに日本に行ってみたいという人も多いだろうし。

戦争中の細かい出来事はそこまで伝わってないかもしれないけど、悲惨だったこと、繰り返しちゃいけないことだよっというのは、いろんなマンガが繰り返し伝えています。苦しい経験は、物語の人物たちが代わりに味わいながら、身をもって教えてくれます。

マンガは紙と書くものだけあれば、割とどんな状況でもつくれるところもいいです。マンガを書いて生活できれば、誰かから何かを奪わなくて済むかもしれません。

日本のマンガって、コマ割りや絵の躍動感、ストーリーなど、工夫がものすごく多いんですよね。質の高さは圧倒的。だから世界中の人から愛されてるんだろうし、それが維持できてたら、きっと日本という国自体もマンガ経由で愛してもらえる気がします。

アルの社長のけんすうさんがこんなことを言っていた。

そこで稼いだお金をどこで使っているかというと、基本的には「マンガ業界に最大限、お金を回す」というポリシーでやっています。

マンガの会社なので、マンガを売って、マンガに関わる人たちにお金がまわって生活もできて新しいものもつくれてハッピーみたいになるといいなっていう感じだと思うのです。

それはなかなか簡単ではないです。お金も時間もとてもかかりそう。でも、楽しいもの、好きなものについて話すっていうのは、けっこう平和な時間で、その話題の源泉を生み出せるってすごいこと。

自分がつくったわけでもないのに、日本のマンガが好きだと海外の人に言われると、とても誇らしく嬉しい気持ちになります。誰かが好きなものがずっと生まれ続ける環境がつくれたら、それはけっこう世界平和につながることで。

だからこれからも、アルには頑張ってほしいなと思っています。


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