冷たい肌

誰かへ。


前回のお手紙から、1ヶ月以上が経ってしまいました。
あっという間に桜の時期は過ぎ、
ネモフィラやチューリップ、ライラックと
次々に大地が染め変わっています。

そんな、命に溢れた季節の中で、
祖母が旅立ちました。

小さな町で育ち、
波瀾万丈な人生を送り、
誰よりも長く生きたいという欲望に燃えていましたが
希望に近いところまで
満足するほど生きたと思います。

そんな祖母を送り出すにあたって
私は生まれて初めて死化粧というものをしました。

すっかり冷たくなった祖母の肌。

化粧品の多くは油分で構成されているので
自分自身にメイクする時の要領ではできません。
私の体温でゆっくり温めて
少しずつ祖母の肌に馴染ませていく。

丁寧にその作業を繰り返している間、
私の体温を分け与えていくようで
繋いでもらって授かったこの命への恩を
本当の意味で初めて祖母に返せた気がしました。

誰も引き受けず
それならば私がしますと承った死化粧。

たくさんの人たちにお別れを告げられる時も、
誰にもすっぴんを見せないくらい徹底していた
在りし日の祖母の姿に近い状態で
美しくいさせてあげることができ、
祖母の尊厳を守り切ったようで本当に良かったです。
私自身の心もスムーズに整理をつけることができました。

誰かが亡くなるたびに、
無事に送り出すことをいつも考えていましたが、
美しく送り出すこと
生前の信念を死後も尊重すること
故人自身の目線も
とても大切だなと考える機会になりました。


これから先
この指先が祖母の肌の冷たさを思い出すたび、
私は自分の体温に命を感じるのでしょう。
生きていたくてもいなくても。

今日も
あなたと私の1日が穏やかに流れますように。


2024.05.27 Oui




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