映画「バクテン!!」で描かれたインターハイ
試合で起こること
映画「バクテン!」を見て、一番刺さったのは香川のインターハイのシーンでした。あの演技の中で起こったことは、実際の試合会場で何度も、何度も見てきました。その時の選手の心象風景をスローモーションで描いた見事さ。その後の場面転換の見事さ。
映画のそのシーンも、試合で実際に見るそのシーンも、胸が「ズォン」と鳴る瞬間です。
男子新体操の団体演技は、わずか数秒の動きを何度も何度も、1年間かけて練習することの繰り返しです。試合でのたった3分間のために、6人の動きを数秒単位で磨き上げていく。そんな競技です。その練習が100%報われることは滅多にないけれど、それが起こった時には世界中の人が絶賛することもある、そんな競技です。
彼らは今日も、わずか数秒のために「イチニイ、イチニッサーン!」とちょっと独特なリズムの掛け声をかけながら、汗を流しています。
映画のラストでは、まるで夢のような素晴らしいシーンが描き出されています。思わず拍手したくなるのを抑えるのが大変でした。これは夢、映像だからこそ実現可能な夢だと思いつつも、心のどこかでそんな現実がやってくることを期待してしまう、そんなシーンです。
香川インターハイ
映画で描かれた、多くの観客で賑わう会場外の風景。満員の客席。
切なかった。
映画には、この競技が抱える数々の問題点が散りばめられていますが、映画製作者がおそらくはある種の希望を込めて描いたのが「インターハイ有観客」でしょう。現実の世界では、一般観客が入場できない事実上の無観客がすでに決定しています。
「決まったことだから仕方ない」「現場も断腸の思い」「ネガティブ発言をするな」という考え方には一理あります。インターハイは部活動の一環ですから、選手の感染リスクを減らすために無観客にすることには、意味があります。
一方で、「無観客は残念」と言い続けることもまた、意味のないことではないと思います。映画「バクテン!!」公開という絶好のタイミングで、この競技を実際に見てもらう機会が失われたこと。これは、競技発展の観点からは損失です。短期的視点からはファン獲得のメリットは見えにくいかもしれませんが、長い目で見れば、ある競技が多くのファンを獲得することが、ひいては選手たちのメリットにもつながると考えられます。
その両方を考慮した時、どこでバランスを取るかという時期になってきているように思います。ファンなりにこの問題を真剣に考えて「残念だ」と発言することは、決してネガティブ思考ではなく、むしろこの競技への、そして未来への積極的な関与だと考えます。
この映画を見て、「男子新体操をインターハイで見たかったなぁ!」と思う方がたくさんいてほしい。
そしてその声が、男子新体操のより良い未来へとつながってほしいと、心から思います。
↓2019年インターハイ優勝 井原高校(岡山県)の演技映像と練習風景
追記:靴下
映画の練習シーン。選手によって靴下の色が違いました。あの人は白、そしてあの人は黒。その描き分けがすごくリアルでした。男子新体操界では、「爪先が綺麗な人は黒靴下」「足先に自信がない人は白靴下」と俗に言われています。某高校の練習現場で監督が「お前たち、足先がそんなに汚いなら、明日は白靴下で演技させるぞ!」と選手を叱咤していたのを目撃したことアリ。
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