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井原高校 2021インターハイ優勝に寄せて

高校総体が始まる前から、「今年の井原はすごい」「完成度が高い」という噂を聞いていた。(私自身は感染リスクの高い地域に住んでいるため、取材には行かず、なるべく現地に近いスタッフに動いてもらっていた)

2年前。2019年のインターハイを制した井原高校の演技は、世間の度肝を抜いた。SNSで拡散されたその演技は、世界中に「Ibara」のファンを作り出した。私たちのYouTubeチャンネルにも、明らかに井原を男子新体操の特別な系統であると認識しているようなコメントが相次いだ。

2019年の作品を更にグレードアップした2020年の演技は、長田監督から公開OKが出なかった。確かに素人目で見ても「完璧な美しさ」とまでは言えない部分がある演技ではあったが、それでも凄い演技には違いなかった。6人揃ってのI字バランスなど、井原以外のどのチームができようか。

しかし何よりも凄いと思ったのは、監督だけではなく選手たち自身が「世界に見てもらいたい演技ではない」として、公開を望まなかったという点だ。その意識の高さ。「美しくなければ新体操ではない」という長田監督の信念が、選手一人ひとりに根付いていることがうかがわれる。

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とはいえ、同じ演技構成の井原ジュニアの演技がグングン回り、世界中から絶賛の声が上がっているのを見て、私は「高校生の演技はもっと凄いんだけどなぁ」という気持ちを抑えることができずにいた。

そこで再び、長田監督に「2020年の高校生の演技を公開しませんか?」と聞いてみた。はたして長田監督の返事はNoであった。同時に、今年の演技に対する監督の自信が垣間見えるようなお返事でもあった。長田監督は実に控えめで謙虚な方である。その監督が、「手応えあり」と言う。これは珍しい、よほどの自信作に違いないと思った。そして期待通り、井原高校は2021年高校総体で団体優勝を果たした。

(↓インターハイ直前に行われた壮行会の演技)

この演技には、見所がたくさんあると思う。冒頭の足が高く上がったパンシェ、6人揃っての甲立ち歩きやI字バランス、逆開脚、大きな隊形移動、高くて正確なタンブリング、同調性、恐ろしく高いジャンプを生み出すリフトなどなど。

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だが私が指摘したいのは、動画の0:59から1:04にかけての5秒間である。1タンの伏臥が終わったあと、選手が一直線に並び、ジャンプからキリッと視線を前に向けるその動作のキレ。続いて1:02あたり。I字バランスに入る直前に、ヒラリと回ってから一瞬プリエのポーズが入り、腕を肘の高さに揃えて少し脱力したような動作をしてから前転。これがもう、長田イズムというか井原イズムというか、独特なのである。このたった5秒の間に実施される動きにこそ、井原がなぜ特別なのか、なぜ美しいのか、その理由があるように思えてならない。

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この5秒間の動きは、難度の観点から言ったら、井原高校でなくてもやろうと思えばできるのだろう。でも、そんな動きを井原ならではの動きに仕立て上げて、彼らは観客の前に差し出す。

だから、井原は特別なのだと思う。

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(トップ写真:井原高校提供)



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