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心配事解消!権利書が紛失したときに読みたい、相続登記の進め方

見つからない...。実家の棚という棚をくまなく探してみても出てこない土地の権利書。親や親族が亡くなり、相続の手続きを進めている最中。あるはずの大事な書類が見当たらずに途方に暮れている方、いらっしゃるのではないでしょうか。

実は、権利書が紛失していても、原則として相続登記には影響がありません。

通称「権利書」と呼ばれる登記済証や登記識別情報は、土地の売買や贈与などの不動産登記において必要な書類です。

しかし相続登記の場合は、原則、権利書なしで登記の申請をすることができるのです。以下、特に区別がなければ、「権利書」=登記済証及び登記識別情報、とします。

権利書がなくても基本的には相続登記は可能。とはいえ、例外的に権利書が必要な場合があります。また、相続登記とは別の話で、権利書を紛失した場合に発生する問題もありますので、あわせてご紹介します。

権利書の紛失は、登記手続きにおいて想定以上に時間も費用もかかり、また最悪の場合、名義が悪用される等のトラブルに巻き込まれる可能性もゼロではありません。

そこで今回の記事では、権利書が不要な理由や紛失による問題点、さらに、すぐに使える具体的なステップとケースごとの必要書類についてお伝えします。この記事を読めば、権利書が見つからなくても相続登記の準備を迷わずに進められるようになるでしょう。


監修者情報

印南和行(宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、一級建築士、一級建築施工管理技士、不動産コンサルティング技能士試験合格) 全国不動産売却安心取引協会 理事長。住宅専門チャンネル「YouTube不動産」が「わかりやすくて参考になる」と大好評でチャンネル登録者8万人、総視聴回数2100万回を超える(2022年7月1日現在)。著書に「プロ建築士が絶対しない家の建て方」(日本実業出版社)、「プロが教える資産価値を上げる住まいのメンテナンス」(週刊住宅新聞社)がある。


1.権利書は紛失しても土地相続は可能

土地や建物の不動産相続に関する登記申請の書類には原則、権利書が不要なため、権利書が紛失していても相続登記は可能です。

一方、売買や交換、贈与など基本的な不動産登記においては、権利書が必要です。売買等の不動産登記では、原則として権利を譲渡する側と譲渡される側、双方の立場の人が共同で登記申請しなければなりません。共同申請と言います。

双方の立場の人の意思や必要書類を確認することで、不動産登記の権利移動が確実に行われ、虚偽の登記申請を防ぐことができるため、この方法が取られています。

しかし、不動産登記のうちの『相続登記』は共同申請の例外で、単独で登記申請を行います。単独申請と言います。相続登記の場合、本人が死亡しているため共同申請になじまず、例外として単独申請が認められています。

そのため、被相続人(亡くなった方)が所有してたはずの権利書がなくても、相続登記ができる仕組みになっているのです。

紛失に気が付いてもまずは焦らずに、状況を確認し、相続登記を進めるための準備をしていきましょう。

2.権利書が紛失した場合の問題点

そもそも権利書とは、不動産を取得した時に法務局より交付される書類です。この書類は不動産の所有者として、不動産を売却などで第三者へ譲渡するとき、不動産を担保に抵当権を設定する場合等において生じる登記手続きに使用する書類で、とても大切な書類です。

大切な権利書ですが、万一紛失したとしても、当然に所有権がなくなったり、登記が抹消されることはありません。登記簿には記録が残っているため、紛失したとしても権利には影響しません。

しかし、重要な書類であることは間違いなく、権利書を紛失してしまうと困る場面もあります。問題点とその対策を紹介します。
まず、問題点としては以下の3つが挙げられます。

  1. 権利書は再発行ができない

  2. 相続登記で権利書が必要な場合がある

  3. 悪用される可能性がある

3つの問題点について詳細と対策について説明します。

1)権利書は再発行ができない

  1. 『相続登記』の場合、基本的には権利書は不要で手続きが進められますが、不動産売却や贈与、その土地や家を住宅ローンなどの担保に入れる抵当権設定をする場合には、権利書が必要となります。

    いかなる場合も権利書は再発行ができません。それは紛失だけでなく、盗難被害だとしてもです。

    権利書は、本人確認及び本人の登記申請意思を示すために法務局に提出する重要な書類。そのため、再発行は一切できない規定となっているのです。

    通常、権利書が必要な登記において権利書の準備ができない場合は、『本人確認手続(不動産の名義人が自分であることを証明する手続き)』が必要となります。

    『本人確認手続』には3つの方法があります。

    1.事前通知制度を利用する
    2.公証人に本人確認してもらう
    3.司法書士などに依頼して本人確認情報を作成してもらう

    状況によって使用できる方法が変わるので、詳細を確認してから選ぶようにしましょう。

2)相続登記で権利書が必要な場合

相続登記の場合は権利書の提出は原則不要ですが、この2つの状況に当てはまる場合は、権利書が例外的に必要となります。

ケース1)被相続人の住所情報が取得できない場合
ケース2)遺贈による登記の場合

2つの状況とその背景を詳しく解説します。

ケース1)被相続人の住所情報が取得できない場合
被相続人が登記簿上の住所から複数回住所を変更していて、住所変更登記を放置していた場合、1回の変更であっても住所変更登記を放置していた場合等に、古い住民票や戸籍附票が廃棄処分されて取得できない場合に権利書が必要です。

通常、相続登記においての登記名義人(被相続人)の特定方法は、登記簿上の住所と住民票の除票上の住所の一致です。
住所が一致していれば、被相続人が登記名義人である証明となります。
しかし、住所の一致が確かめられない場合には、別の方法で登記名義人を確認する必要が生じ、権利書が必要となります(便宜、権利書に記載されている住所を、住所を証する証明の補完書類とするため)。

ケース1)の場合で、権利書が紛失した場合は、別途、上申書を作成するなどして対応します(上記、3つの『本人確認手続』は行いません)。

ケース2)遺贈の場合
遺言書により遺贈がなされた場合、不動産の登記は、原則、相続登記ではなく『遺贈登記』として行われるため、被相続人の権利書の準備が必要です。

遺贈登記は、相続登記のような単独申請ではなく、双方が共に申請をする共同申請が義務付けられているからです(受遺者と遺言執行者、又は受遺者と被相続人の相続人全員、との共同申請)。

『住所情報が取得できない』『遺贈による不動産登記』のどちらかに当てはまる可能性がある場合、早めに権利書の所在を確認しておきましょう。

ケース2)の場合は上記3つの『本人確認手続』のいずれかが必要となります。紛失が確実であれば早急に上記『本人確認手続』を進めていきましょう。

3)悪用される可能性と対策

権利書の紛失がたとえ盗難など故意的なものだとしても、権利書だけでは不動産の売買や名義変更はできません。しかし、権利書、印鑑証明書、実印の3点が揃うと勝手に名義を変更されるリスクが高まります。

知らないところで不当に登記名義を変更されていることもあるのです。
過去に権利書がなかったことを悪用した事件が発生し、裁判まで発展したケースもあります。

万が一、権利書の紛失により不当に登記名義を変更されたとしても、実質的な所有権がなくなるわけではなく、その登記が違法であると証明できれば、裁判を経て所有権移転登記を抹消することもできます。

しかし、トラブル対応は楽ではありません。権利書を紛失してしまい、悪用されないよう事前の対策をしたい場合はこの2つの方法があります。

対策1)不正登記防止の申出
対策2)登記識別情報の失効の申出


2つの対策方法について具体的に解説します。

対策1)不正登記防止の申出
法務局に申請する制度です。申請時から3ヶ月以内に何らかの登記申請がある場合に通知してもらえます。

申請を受け付けてもらうためには、警察への相談や盗難被害届の提出など具体的な対応を行なっている必要があります。そのため、確実に盗難されている場合や実印や印鑑証明書も共に紛失した場合に使用しましょう。

対策2)登記識別情報の失効の申出
法務局に申請し、登記識別情報を無効にする制度です。ただし、失効した情報に再度効力を持たせることや、再発行はできません。もし見つかった場合も同じ登記識別情報を使用することはできません。

そのため見つかった後に所有権移転をする場合は、紛失時と同様『本人確認手続』をすることになります。

3.土地相続をする場合にかかる費用

土地相続をする場合にかかる一般的な実費費用は以下の通りです。これに登録免許税が必要になります。一覧はこちらです。

*登録免許税の税額(相続登記の場合):土地の固定資産税評価額(固定資産評価証明書を確認)×1,000分の4 ※固定資産税評価額が100万以下の土地の場合は免税の特例あり 参考:法務局

原則として相続登記の場合には権利書が不要なため、紛失によって特別な追加費用がかかるわけではありません。

しかし、遺贈登記により権利書が必要となる場合には必要書類が異なり、通常よりも手間や費用がかかります。また、相続登記で権利書が必要となる場合の運用は法務局ごとに異なります。

そのため、相続登記の申請前にあらかじめ法務局の登記官と打ち合わせをし、代替書類を準備する必要があるでしょう。

司法書士に書類準備や登記申請を依頼する場合は、報酬として数万〜数十万程度の追加費用が別途かかります。

4.ケース別に解説!相続登記手続きの3つのステップ

相続登記の申請手続きはこの3つのステップで進めます。

ステップ1:相続財産を特定する
ステップ2:必要書類の収集
ステップ3:登記申請書の作成および申請


ステップ2の必要書類の収集では、この3つのケースで必要な書類の種類が変わります。

ケース1:法定相続分で申請する場合
ケース2:遺産分割協議で決まった割合で申請する場合
ケース3:遺言に基づき申請する場合


それぞれのステップを具体的に説明します。

ステップ1、相続財産を特定する

不動産の所在地や面積、権利情報などを明確にし、相続の対象となる不動産の確認をするための書類を取り寄せます。
必要書類の一覧はこちらです。

※役所:区役所・市役所・役場

戸建やマンションの場合は、土地と建物両方の書類を集めることが必要です。

ステップ2、必要書類の収集

相続人と相続の割合を決めるために、相続人・被相続人に関する書類や情報を収集します。

必要書類は、3つのケース、法定相続分で申請する場合、遺産分割協議で決まった割合で申請する場合、遺言に基づき申請する場合、で異なります。
3つのケース別に必要な書類と入手場所を説明します。

ケース1)法定相続分で申請する場合
法定相続分とは、法律上定められている各相続人の取得割合です。
法定相続分に応じた割合で相続登記を申請する場合、必要な書類はこちらです。

法定相続分で相続登記をする場合、原則として被相続人の戸籍を、現在のものだけでなく、出生までさかのぼって集める必要があります。すべての相続人を把握するためです。

戸籍は法律の改定ごとに新しいものが作られるため、法律の改正前に除籍となった子は記載されていないことがあるからです。

したがって、出生から死亡までの全戸籍を取得し、法定相続人を特定し、法定相続分の計算に相違がないことを証明する必要があるのです。

ケース2)遺言の場合

遺言がある場合、その内容に基づき不動産の相続を行います。
遺言による相続登記において提出する書類はこちらです。

法定相続の場合と異なる書類は戸籍謄本の種類です。
遺言による相続登記では、被相続人の死亡時の戸籍謄本と不動産を取得する相続人の現在の戸籍謄本のみとなります。

遺言書の記載内容に基づいて相続登記をするため、相続人全員を把握する必要がないためです。また、遺言書の提出も求められます。

注意点する点は、自筆証書の遺言書を発見した相続人は、遅滞なく家庭裁判所へ「検認」の申立てをする必要がある点です。

※法務局で保管していない自筆証書遺言と秘密証書遺言は、検認済みのものが必要となります。
※公正証書遺言と法務局で保管している自筆証書遺言は検認が不要です。

ケース3)遺産分割協議の場合

遺産分割協議による相続の場合、被相続人の財産について「どう分けるか」を相続人全員の合意の上自由に決めることができます。
遺産分割協議の場合に提出する書類はこちらです。

まず、遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成します。

遺産分割協議書は法定相続全員の合意の上で作成が必要です。話し合いによって決まった内容を協議書に記載。その上で法定相続人全員が署名・実印での捺印をします。

提出時には、遺産分割協議書と法定相続人全員の印鑑証明書が必要です。
他の書類は法定相続分のものと同様です。

法定相続人を特定するため、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本も準備します。

ステップ3、登記申請書の作成および申請

必要書類が揃ったら、登記申請書を作成します。相続登記の申請書のひな型は法務局、または法務局ホームページより入手可能です。

法務局HP:https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/fudousan4.html

作成後、不動産の所在地の管轄にある法務局に申請をします。

5.まとめ

今回は『権利書を紛失していても心配ない、相続登記の進め方』について解説しました。

権利書が紛失していることに気がついても、焦らなくて大丈夫です。例外を除き、相続登記の手続きには権利書は不要だからです。

しかし、被相続人の住所一致が確認できない場合や、遺贈の場合には権利書の提出が求められることもあります。

また、いかなる場合も権利書は再発行できません。不当に奪われた所有権は裁判によって取り戻すことができますが、知らない間に売買取引が行われているようなトラブルに巻き込まれる可能性もゼロではないのです。

紛失に気がつき不安な場合は、不正登記防止の申出や登記識別情報の失効の申出などを行い、事前に防ぐことをおすすめします。

重要な書類であることは間違いないので、保管場所は家族と相談し、大切に管理しておきましょう。

相続登記を行う際は、まずは相続の対象となる不動産を確認し、法定相続分、遺言、遺産分割協議のどのケースで相続を進めるのか検討が必要です。

ケースごとの必要書類を理解することで書類を漏れなく準備し、相続登記をスムーズに進めていきましょう。


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