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コーヒー

 目が覚めると隣には見慣れた顔の男が眠っている。その顔を見て微笑むことができたらどれだけ幸せだろうかと、少し心臓が痛くなった。
「はぁ、今日何曜日だっけ。」                           

 スマホを確認すると日付は土曜日になっていて、大きく伸びをする。起きる気配のない男を放置しベッドから抜け出した。散らかったものを拾いながら一つ一つ体につけていく。                           「おっけー、完了。コーヒー入れようかな。」              

 コーヒー豆を挽きながら窓の外の景色を眺めるのが好きだ。気がついたら毎日の習慣になっている。コーヒーなんてなんでも同じだと考えていたあの頃が少し懐かしくなった。でも、あの頃よりも朝は穏やかに過ぎるようになったと思う。 挽いた豆をセットしてお湯を注ぐ。ゆっくりと丁寧に。コーヒーの香りに包まれると、ホッとして笑みが溢れた。 
                                                                                            「おはよ。いつ起きたの、起こしてくれればいいのに。」
「おはよう。今日休みだしゆっくり寝たいかと思って放置しといた。」
「ありがと。俺にもコーヒー頂戴。」
 同じ部屋にいて、一緒に寝て、起きて普通に話しているけれど付き合っているわけではない。
ただ、お互いが楽だからそれでいい、そんな関係。
「はい、コーヒー。」
「さんきゅ。」

 ソファに二人で座って、それぞれに好きなことをする。彼はスマホで流行りのケームにハマってるらしい。あたしにはよく分からなかったけれど。
「今日天気いいね。」
そんな独り言を呟きながら外を眺めてコーヒーを一口飲む。
この苦さが今のあたしには丁度よかった。

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