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版画とクリームどら焼き。「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」展へ

図録を買った直後は嬉しいのに
あとは案外、見ないもので。

でも暑い日に表紙を開くと
すうっと風が吹いてきた。

「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」
2024年4月5日(金)~6月2日(日)
八王子市夢美術館


『東京十二題』こま形河岸(1919年)


静かで、あたたかみのある風景。
夜の深い青、ぴかんと光る広い青。

川瀬巴水かわせはすいの版画を見た時、なんてモダン、どうして知らなかったんだろうと、驚きとともに鑑賞したことを覚えています。

企画展を何度か逃していたのだけど
たまたま仕事場の方から教えてもらい
5月13日、足を運びました。

「八王子駅から徒歩15分」にひるむも
商店街を歩き、意外とすんなり到着。




新版画の星

川瀬巴水かわせはすい(1883〜1957)は糸屋の跡取り息子。周囲の反対にあいながら画家を志す。
父の事業失敗で家が傾き、25歳、画業へ本格シフト。27歳、日本画家の鏑木清方に弟子入り。

35歳、版元の渡邊庄三郎(33歳)と版画を制作。
従来の技法にとらわれない、創意工夫を凝らした「新版画(新板画)」の作家として評価される。


船に大根を積む人々。
傘を深くさして歩く着物の女性。

見たことはないのに懐かしい。
懐かしいけど、どこか新しい。

滝にひらめく紅葉の赤い点、
軒先に舞う桜の花びらなど
細部のキラリが印象的。

なかでも好きだったのが
中尊寺金色堂。夜空に光る星。
その一点が、あると無いとで全然ちがう。


風。木々のざわめき。
遠くの家からこぼれる光。

当時の人々の暮らしが確かにあって
それが、今ここへ続いているんだ。


『東京十二景』馬込の月(1930年)
巴水の自宅から徒歩20分


渡邊庄三郎たちと共に

版元の渡邊庄三郎が居なければ
輝きは半減していたかもしれない。

大震災、戦争。作家のスランプ。
どうアピールするか、海外にも目を向け。
売ることに振り切るのではなく、作家を尊重する。



『東京十二景』芝増上寺(1925年)




絶筆未完の作品は
さきの中尊寺金色堂と同じ構図で
雪の中に歩く僧の後ろ姿が加わる。
渡邊が仕上げをし、販売はせず
法要に来た親戚や知人にのみ配られたそう。

かかわる人々の思いが存分に詰まっていて、
すごいすごいと心の中で呟く。

(前半集中しすぎて、見る配分を間違えたのが少し反省点。)



和と洋の融合をあじわう

帰りに向かったのは、どら焼きの「まかな」。ここも教えてもらったのです。
年上の女性で、ポケモンGOのために海外単独旅行する人。

「イートインで二時間も話しちゃって!普通のどら焼きの味はまあまあで、クリームは色々あって、ぐしゃぐしゃのコーヒーゼリーが入ってるやつが美味しかった!」
それは、クラッシュゼリーかな。

彼女の快活な声を思い出しながら
私はクリームどら焼きを頂く。
プラス200円でコーヒーセットに。

生地はふわっと、洋風。
生クリームとつぶあん。
クリームがあるから調和する。
おいしい。

横では大先輩のグループが談笑中。
仏教の話。悟りの境地。


* * *


伝統に新しい魅力を詰めた新版画は
版画界のクリームどら焼きみたい。

巴水さんは
クリームどら焼き食べたこと無いよな。
どら焼きは、あっただろうけど。
そもそも甘いの、お好きだった?


「川瀬巴水 甘党」で検索。
出るはずもない。


甘味をふわふわ噛み締めて、
巴水の頃に、思いを馳せる。





巡回:
山形美術館
2024年7月11日(木)~8月25日(日)
http://www.yamagata-art-museum.or.jp/exhibition/5487.html


大阪歴史博物館

2024年10月5日(土)~12月2日(月)
https://www.osakamushis.jp/news/2024/kawasehasui.html



画像出典:国立国会図書館サーチNDLイメージバンク「美しい日本の風景」より『川瀬巴水の風景版画』