見出し画像

leprechaun レプラコーンと賢者の石  


leprechaun レプラコーンと賢者の石(英国の不思議な妖精と石達 その3)


アイルランドのラッテン州に、ローナン・オサリバンという男が住んでいた。
ローナンの村は貧しく、彼は畑で馬鈴薯を育てていたが、
毎日、コツコツと働くことに嫌気がさしていた。


ある朝、彼が畑に出ようとすると、
納屋の片隅で何か小さいものが動いているのが目に留まった。
よく見ると、三角帽子に赤いジャケット、白いひげをはやした小さな老人だ。
皮のエプロンをして、小槌でコツコツと忙しそうに靴を作っている。

brian froud fairy


“こいつは、妖精の靴屋、レプラコーンに違いない”
すぐには信じられなかったが、幼い頃に父親が語ってくれたレプラコーンの話しを思い出していた。
(レプラコーンは踊り好きな妖精がすり減らした靴を治すのを仕事にしていて、
片方の靴しか作らない変わり者。土の下には99個の宝の壺を隠し持っている。
もしレプラコーンを捕まえたら、一生遊んで暮らせるぞ。)


ローナンは静かにレプラコーンに近づくと、ひょいとその小さな身体をつまみあげて、納屋の戸口にあったガラス瓶にぽいっと投げ入れた。

突然のことで何が起こったかわからないレプラコーンのおじいさんは、
きょろきょろとガラス越しに回りを見回していたが、逃げられないことを知ると、あきらめたように、その場に座り込んだ。

Brian Froud An Oddly Familiar Gnome


「おい、レプラコーンのじいさんよ、おまえさんがたくさんの宝の壺を隠し持っていることを知っているんだぞ。」
ローナンがガラス瓶を覗き込みながらそう言うと、
レプラコーンは白いあごひげをいじりながら、
「ほほう、
おまえさんだってたくさんの宝物を、土の下で育てているのではないかい?」
ローナンは鼻で笑って、
「ふん、馬鈴薯のどこが宝もんなんだい。おまえの99個の宝の壺のありかを教えないと、そこから出してはやらないからな。」


レプラコーンはしわくちゃな顔に、さらに眉間にしわを寄せて、
「そうか、それでは、おまえさんに賢者の石を授けよう。それでここから出してはくれぬか?」
欲張りなローナンは、まずはその賢者の石を奪ってやろうと考えた。     「賢者の石か、よし分かった。まずはその石を手にしたら、お前をそこから出してやろう。」

Faeries and forest creatures Brian Froud

レプラコーンが小さな声で呪文のようなものを唱えると、
ガラス瓶の底から“ポーン“と、何かが飛び出した。
ローナンの手に乗っているのは、白地に血のような真っ赤な模様の石。

レプラコーンは得意げに、
「そなたに、どのように”賢者の石の恩恵“を受けるかを教えよう。まずは、ここから出しとくれ。」
優しく頼み込むレプラコーンに、ローナンは冷たく言い放した。       「残念だったな。賢者の石より、宝の壺のほうが重要だ。」
そう言い放つと、手の中の石をポケットに突っ込んで、
右手でガラス瓶からレプラコーンを掴み出した。
「おい、レプラコーンの欲張りじじい。今すぐお前の宝の壺のありかを教えないと、この手の中でひねりつぶされると思え。」
レプラコーンは苦しそうに手の中であがいていたが、やがて諦める様に言った。「宝の埋めてある場所に案内しよう・・・」



それからレプラコーンはローナンを広い野原に案内し、
一つ目の丘、二つ目、三つ目の丘を過ぎて、四つ目の丘の前で立ち止まらせた。

レプラコーンは瞬きする間に消えてしまうと聞いていたので、その間もローナンはずっと我慢して、手の中のレプラホーンを瞬きせずに見つめ続けていた。

「ここだ、ここに宝が埋めてある。」
彼はほくそ笑んで、そう言った。
そしてレプラコーンは、こう続けた。
「満月の夜に、賢者の石を口に含み、月に祈りを捧げれば、お前の足元に宝の壺を見るだろう・・・」
ローランは嬉しくなり、つい瞬きをしてしまった。
その途端、手の中のじいさんは、水滴が砂に染み込むかのようにスーッと消えてしまった。

どこからか、声だけが聞こえる。
「宝を与える変わりに、お前の宝も一つだけいただくぞ。」
ローランは心の中で思った 
(ふん、宝が手に入るなら俺のジャガイモは一つと言わず全部くれてやるさ。)

ローランは、ポケットから賢者の石を取り出すと、四つ目の丘の上に目印として置き、次の満月を待つことにした。



Faeries and forest creatures Brian Froud


6月の満月はストロベリームーン、苺のような真っ赤な満月。
その夜、ローランは99個の宝の壺をどうやって抱えて帰ろうか、という事ばかりに頭を悩ませていた。
四つ目の丘の上には、白地に赤い血の付いたような石が輝いている。
ローランは、すぐにその石を口に含んで、真っ赤な満月を見上げた。
徐々に足元の土が盛り上がり、宝の壺が次々と現れる。
それと同時に、自分の意識が遠のいてゆくのを感じていた。
どこか遠くで、聞きなれたレプラコーンの声が聞こえる。

「妖精の宝は、そんなに簡単に手に入らないさ。」

<物語りの解説>

コツコツと働くことが嫌いなローランは、ある日、納屋の片隅でレプラコーンと出逢う。父親の妖精の昔話を信じていたローランは、レプラコーンの宝物を手に入れることで一攫千金をもくろんだ。
レプラコーンの与えた賢者の石は、シンナバー(辰砂)で、錬金術では最高の霊薬とされてきた石だ。
レプラコーンを信じて、この石の正しい使い方を知ったなら、ローラン自身が賢者となり、富はもとより地位や権力も手に入れることが出来たかもしれない。
しかし、宝物に目がくらんだ欲張りなローランは、賢者の石には目もくれず、レプラコーンの宝の壺を横取りしようと企む。
レプラコーンは宝の壺を与える代償に、一つだけお前の宝をよこせと言う。
それがじゃがいものことと勘違いしたローランは快く承諾したが、レプラコーンの言う宝とは、彼の大切な魂のことだったのだ。
シンナバーは毒性のある水銀の硫酸鉱物、口に含めば有害となる。
しかし賢者になって、その取扱い方を学べば、決して恐ろしい石ではない。
それどころか、金運を高めて財力を強め、努力を繁栄に変える。
さらに威厳と権力を与え、人格を高める。
知恵を持って扱えば、持ち主に幸運を運んでくれる石なのだ。



<レプラコーン>

レプラコーン(レプラホーン)は悪霊の子供で、墜落した妖精といわれ、垣根に座って靴を修繕する。
「小さな体」を意味する名であり、ルブラホーン、ラバーキン、ルホルバン、ルプラホーンとも呼ばれる。英語読みではレプラカーン。
ケルト妖精譚を編纂したWBイェイツはレプラコーンは片足靴屋を意味すると言っており、「片足の粗い革靴」を意味する古語レ・ブローグLeith brogから来ているそうだ。
レプラコーンは、小さなしわくちゃの顔にごま塩のあごひげ、とがった鼻に輝く目をしている老人。三角帽子に、銀のボタンの赤ジャケット、茶色の半ズボン、銀の留め金つきの黒ブーツを履いている。背丈は人の指くらいとも、1フィート半(約45センチ)ともいわれ、皮のエプロンをし、忙しそうに小槌でコツコツと靴の修理をしている。
働く姿を見せる妖精にはブラウニーもいるが、彼らは人間に奉仕する妖精であるのに対し、レプラコーンはほとんどの場合自らの為にしか働かない。
グリム童話の“小人の靴屋”に登場する妖精とはこのレプラコーンのこと。
一日に靴を片方しか作らないが、体が小さいので余り仕事が出来ない、または一本足であるからとも言われる。
地中に宝物を埋めており、彼らを捕まえれば黄金のありかを教えてくれるが、たいていの場合、黄金を手に入れることは出来ない。
彼らは隠れ上手で、またレプラコーンを捕まえたとしても、“彼らはまばたきする間に消えてしまう”と言われており、少しでも顔をそむけたら、彼らは「水滴のように」手をすり抜けて、永遠に姿を消してしまう。
レプラコーンを見る為には、四つ葉のクローバーを頭に載せなけれなならない、と言われている。しかしレプコホーン自身賢くなって、姿を千変万化させて容易に人間には捕まらない術をわきまえてきたようだ。
アイルランドの人たちはレプラコーンを人形にしてお守りとして飾っている。
レプラコーンを捕まえて宝のありかを白状さえ、一攫千金を夢見た昔の名残りかもしれない。




<シナバー エネルギー>

シナバーは、気品と優雅さを強調する鉱物で、未来の可能性やビジョンを見通し、夢を現実のものにするといわれている。 創造力や新しいアイディアを与え、直感力を研ぎ澄ますので、クリエイティブな仕事の人にも向いている石。
ローマ神話のマーキュリー神のエネルギーを持ち、明晰な頭脳、機敏な身のこなし、忍耐力を与えると伝えられている。
金運を高めて財力を強め、物事を順調に遂行して精巧に導く力があるとされている。努力を繁栄に変えて成功を収めるよう働きかけるので、商売繁盛の為にお財布の中などに入れておくのも良いかもしれない。
販売業における説得力と積極性を高め、強引になることなく努力の成果が実るとされている。組織、社会事業、商取引、金融を支援する。威厳と権力を与えるので、人格を高めるともいわれている。
辰砂は錬金術や煉丹術で、最高の霊薬とされてきた。なぜなら、赤は大地の女神のパワーを持った色とされ、私達の生活の糧を与え、生かしてくれる生命力の結晶と信じられていたからだ。
世界各地で辰砂が墓に納められたのも、死後の世界で死者の魂が活力のある日々を送るようにと願ってのことだった。辰砂の赤色は、「高貴」の象徴として大切に扱われ、血の色、すなわち生命力の象徴であり、「重要なもの」という意味も持つ。中国でも不老不死の妙薬として、漢方薬として用いられていた。
中国の唐の時代には、シナバーを飲んだことで少なくとも6人の皇帝が水銀中毒で死亡したと推測されている。血と同じ色を持ったシナバーが、夢の不老不死の妙薬と映り、シナバーの鮮血色に魅せられてしまったのかもしれない。
「賢者の石」「不老不死の妙薬」と東西で崇められてきたシナバーだが、実は毒性のある水銀の硫化鉱物。「生命力の象徴」とされながら、その実は「毒」。
美しく、魅力的でありながら意地悪な部分も持ち合わせた石なのだ。
でも、決して恐ろしい石ではない。シナバー自体は持ち主を選ぶ事なく、自分の主となる人に対しては非常に忠実で、心優しくて頼りがいのある存在となる。
あなたが、知恵を持って扱えば、シナバーはいつでも、持ち主に幸運を運んでくれるはずである。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?