こんなことでフグ中毒に! 実際に起きた10事例
厚生労働省の統計によると日本国内でのふぐ中毒は、次の図のように、おおよそ年間15件から30件の範囲で推移しています。
フグ中毒はほとんどが素人調理によるものです。どんなときにフグ中毒になったのか、厚労省の食中毒事件詳報から抜き出してみました。
フグ中毒 10事例
① 平成10年11月、広島市の事例(クサフグ)
釣ったクサフグを自分で干物に加工して食べて1名がフグ中毒になりました。テトロドトキシンが筋肉から67 MU/g、皮から110 MU/g検出されています。
クサフグは筋肉のみが可食部で、皮は不可食部となっています。クサフグの皮の毒が干物に加工する間に筋肉にも移行したものと思われます。
② 平成11年10月、鹿児島県の事例(ドクサバフグ)
サバフグは無毒とされますが、サバフグと外見はよく似ていますが筋肉にも毒がある、ドクサバフグがあります。
鹿児島県串木野市で、漁師である患者が漁で採取したドクサバフグをクロサバフグと誤認し、ぶつ切りと肝のみそ煮込みをもう一人の患者である母親と食べたためにフグ中毒が発生しています。
ドクサバフグはプロの漁師でも鑑別が難しいという例で、フグの内臓は諦めて食べないというのが無難なようです。
③ 平成12年2月、大阪府の事例(ヒガンフグ)
自ら釣ってきたヒガンフグの未成熟卵巣を精巣(白子)と間違えて喫食したと推定される事件がおきています。本件は、もともと有毒とされるヒガンフグの精巣だったのですが、未成熟卵巣は精巣との鑑別が難しいとされています。
コモンフグ、クサフグ、ヒガンフグを除き、精巣は卵巣に較べ弱毒で、精巣を食べることができるフグが多くあります。フグとして最もポピュラーなトラフグは精巣は食べることができますので、このあたりが間違いの原因につながっているかもしれません。
④ 平成13年2月、東京都区部(マフグ)
廃棄物置き場にマフグの卵巣が捨てられており、それを拾って調理して食べたホームレスがフグ中毒にかかりました。
卵巣を見ただけで、その魚の種類を当てることはできません。マフグは筋肉と精巣のみが可食部ですので、廃棄物置き場には皮と肝臓、卵巣が捨ててあったと思われます。
この卵巣を拾った人はフグの卵巣ということには気づいていましたが死ぬ気はなく、勝手に弱毒だろうと思って食べたようです。
⑤ 平成14年3月、大阪府の事例(クサフグ)
フグ毒であるテトロドトキシンは水溶性ということになっています。しかし、水晒しすれば簡単に徐毒出来るという訳ではありません。
友人から教えられたとおりにクサフグの卵巣を30分間水晒して食べた1名が中毒にかかりました。クサフグは筋肉部分だけが食べることができるフグです。
⑥ 平成16年7月、大阪府の事例(ヒガンフグ)
ふぐの肝(キモ)は水晒しすれば喫食できるという誤った素人知識で、ヒガンフグの肝を水晒しして食べた1名が中毒にかかりました。ヒガンフグは各地でフグ中毒を起こしているふぐです。
⑦ 平成19年1月、長崎市(魚種不明)
飲食店の調理人がふぐの肝臓を精巣(白子)と勘違いしてお客さん8人に提供し、全員がフグ中毒になりました。
肝臓は精巣に比べて大きいし、精巣は白子というほど白っぽく魚をさばいたことのある飲食店の調理人が間違えることは無いと思われますが、よほど不注意な料理人だったようです。
⑧ 平成19年3月、京都府(シマフグ)
飲食店で客6人にシマフグの精巣(白子)を提供したところ、2人がフグ中毒になりました。お店で食べたシマフグの白子に、適切に除去されていなかった有毒部分が付着していたことが原因と推察されています。
白子そのものは他の臓器と区別しやすく、内臓から取り外し易いものです。しかしながら、ときに、いわゆる両性フグといわれる雌雄同体のフグが見られることがあります。精巣内に卵巣実質組織が混在するものもあると言われることから、本件はこのような事例であった可能性があると思われます。
⑨ 平成22年12月、青森県の事例(クサフグ)
河豚の卵巣の糠漬けは、石川県の郷土料理です。その毒力がおおむね10 MU/g以下となったものについては厚生省からの通知で食べてもよいことになっています。青森県の方が、約10年前から塩漬けして保存しておいたクサフグの卵巣を喫食したところフグ中毒になりました。
単に塩漬けしておくだけで、必ず無毒化されるということは有りません。
⑩ 令和元年12月、尼崎市(サバフグ推定)
サバフグを調理して食べた1名がフグ中毒になりました。
保健所が患者宅に保管されたフグの肝臓と筋肉の部分を参考としてフグ毒(テトロドトキシン)の検査を実施したところ、肝臓と筋肉の両方からテトロドトキシンを検出しました。このため原因食品を「サバフグの肝臓(推定)」としました。
近年、尼崎市が面する瀬戸内海でもドクサバフグが確認されているようです。本件は筋肉部分からもテトロドトキシンが検出されているところから、ドクサバフグであった可能性もあると考えられます。
まとめ
フグ中毒になりたくてフグを食べる人は少ないと思うのですが、自分で釣ったフグを素人調理してフグ中毒にかかる事例は毎年発生しています。フグ毒は、個体により毒の量が違うことが知られています。何度か食べてみて安全だったことが、必ずしもその種類のフグが安全ということを意味しないようです。
①「フグの内臓には手を出さない」
②「名前の分からないフグの皮にも手を出さない」
もっと詳しく知りたい方のために(筆者が参考にしたサイト)
◇ 安全なフグを提供しましょう/厚生労働省
◇ プロの職人が(フグ免許)実技のトラフグ捌き方全部教えます。
◇ フグ免許(実技)の受かるトラフグの捌き方
◇ 北濱喜一,フグ考現学(2) - 雌雄同体トラフグ(両性トラフグ)の毒性について -
◇ 危険!ドクサバフグに注意!!/南あわじ市
◇ テトロドトキシンという不思議なふぐ毒、その謎に迫る(株式会社ふるさと産直村)
◇ 荒川修,フグ類が保有する毒の分布,蓄積機構,および生理機能,Nippon Suisan Gakkaishi 79(3),311-314 (2013)
◇ ふぐ中毒最多はコモンフグ - 過去に中毒を起こしたふぐの種類(今日の疑問 2021/11/14)
◇ ふぐによる食中毒事例(今日の疑問 2018/04/20)
◇ フグの肝臓等で出汁をとったみそ汁でふぐ中毒/長門市(今日の疑問 2021/10/11)
◇ ふぐ白子の軍艦巻きで2人がふぐ中毒/新潟県(今日の疑問 2019/10/16)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?