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二日目のカレーが好きなのですが、食中毒の危険が…

Q:二日目のカレーが好きなのですが、食中毒の危険があると聞きました。本当ですか?
A:食中毒の危険があるのは本当ですが、きちんと対策すれば心配ありません。
 
 これは、東京都福祉保健局の【食品安全FAQ】の一節です。このサイトはよくできていますのでご一読をお奨めします。

 ところで、先日、twitter上で「カレーの食中毒は加熱しても要注意」といった感じの書き込みが流れていました。カレーの食中毒として有名な耐熱性の芽胞を作るウエルシュ菌を念頭に置いて、注意喚起をするものでした。
 これは誤解を招きやすい書き方だと思うので、少し補足したいと思います。

ウエルシュ菌の特徴:

 ウエルシュ菌はカレーの食材である肉などに芽胞という加熱に強い殻に入った状態で付着しています。
 芽胞は加熱調理しても生き残るので要注意なのは間違いありません。
 また、ウエルシュ菌の芽胞は加熱調理のショックで、どんどん栄養体に変わります。栄養体は倍、倍と分裂して増えていくことができます。
 食中毒が起きるのは、食品中で大量に増えたウエルシュ菌の栄養体を 100万個以上、食品とともに食べてしまうからです。
 ウエルシュ菌はヒトの小腸内で増殖して芽胞に移行します。芽胞に移行する際にエンテロトキシン(毒素)が産生されます。食後平均10時間くらいたつと、その毒素の作用で下痢などの症状が起きます。

過去のカレーによる食中毒の例:

事例① 野外学習施設の例
 野外学習施設で昼間に調理が終わったカレーを鍋のまま夕方まで保管しておき、それを子供らに夕食として提供し、食中毒が発生しました。
 本件は、カレーが熱すぎると子供らが火傷をするからという思いやりが、食中毒に結びついたようです。

 ウエルシュ菌は12℃~50℃で増え、特に43~45℃で活発に増えます。この温度をお風呂の温度に例えると、熱すぎて入れない温度です。
 大鍋で大量に調理したものを鍋のままで保管すると、冷めにくいので、ちょうど43℃~45℃の温度帯に長時間保管することになります。

事例② 幼稚園の行事の例
 前日に調理し常温保管したカレーを当日あっためて提供。再加熱が不十分でした。

 ウエルシュ菌の栄養体は50℃を超えると増えませんし、60℃を超えると死滅していきます。
 従って、提供直前に中心部が70℃になるまで加熱すればウエルシュ菌は死んでしまい、食中毒にはなりません。
 二日目のカレーも、ゆっくり、かき混ぜながら気泡が出てくるまで(グツグツするまで)再加熱すれば大丈夫なのです。
 しかし、夏場にレンジの傍でゆっくり加熱するのは熱いし、強火で加熱すると焦げてしまいます。
 つい、食べて冷たいと感じない、50℃程度で再加熱をやめるので食中毒が起きています。

カレーによるウェルシュ菌食中毒はこうやって予防!

1.ウェルシュ菌を増やさない。
 => 加熱調理した食品はウェルシュ菌の増殖しやすい温度帯(12~50℃。特に43~45℃で活発)を早く通り過ぎるように、加熱後は冷却しましょう。

 ウェルシュ菌を増やさないよう加熱調理後はなるべく早く、2時間以内に食べましょう。
 食べるのが少し遅くなる時は、例えば、小さな容器に小分けするなどして早く30℃以下に冷ましましょう。
 長時間保存する場合は荒熱をとり、なるべく早く冷蔵庫に入れましょう。

2.増えたかもしれないウェルシュ菌を再加熱して減らす。
 => 加熱調理後、温度が下がった食品中では、ウエルシュ菌は通常、芽胞ではなく熱に弱い栄養体で生存しています。このため、再加熱で菌の数を減らすことができます。菌の数が少なくなれば、食中毒のリスクも低くなります。

 ウエルシュ菌の芽胞は耐熱性があるものの、栄養体は通常の加熱で死にます。1回目の加熱調理でウエルシュ菌芽胞が若干残り、栄養体が増えたとしても、再加熱で栄養体は死滅し、1回目の加熱で残っていた芽胞も発芽し栄養体になるため、次の100℃での追加加熱後はウエルシュ菌を検出しなくなったという白インゲン豆煮豆の報告もあります。
 再加熱は、かき混ぜながらグツグツするまで十分加熱することが大事です。

参考:保存温度別ウエルシュ菌の増え方の例

 食中毒菌などの細菌は倍、倍と分裂して増えますが、付着した食品などの種類と温度によって増えるスピードが異なります。
 一つの細菌が分裂して二つに増えるために要する時間を世代時間といいます。
 次の表は、文献からウエルシュ菌の世代時間を調べてみたものです。調理済み食肉、蒸し牛挽き肉、マッシユドポテト、鶏肉のバーベキューなどウエルシュ菌を増やすのに使ったものは異なっています。表に示した温度では必ず表の右側の世代時間で分裂するとは限りませんが、大体こんな感じだと捉えてください。
 食品をウエルシュ菌の危険温度帯(43℃~45℃)に置くことがいかに危険かということが分かると思います。

ウエルシュ菌の世代時間
世代時間の差による増殖状況

参考:
二日目のカレーが好きなのですが、食中毒の危険があると聞きました。本当ですか?【食品安全FAQ】 /東京都福祉保健局
ウエルシュ菌(Clostridium perfringens)/食品衛生の窓
◇ 熊谷進ら、HACCP:衛生管理計画の作成と実践 改訂データ編、中央法規出版、2003年7月20日発行
◇ 坂崎利一編集、食中毒、中央法規出版、昭和59年10月15日初版4刷p197
◇ 廣田昌幸ら(富山県中部厚生センター):K老人保健施設で発生したウェルシュ菌食中毒の再現試験結果について,平成14年度全食協,p91-94,2002
◇ 門間千枝(東京都健康安全センター微生物部):ウエルシュ菌食中毒予防 ー 事例から考える課題と予防 ー ,食品衛生研究Vol.69, No.5(2019),p21-36

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