魚突き漁の話

 というか、魚突きをめぐる漁協内のあれこれについて。
 結果的に良い方に転んだ一年だったという話。

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 オレの所属する伊奈漁協(対馬市)は組合員数が正、准合わせて100人弱の小さな漁協。そのうちでアクティブなのは20人ほどで、あとは高齢者や他にメインの仕事を持っているという理由でほとんど漁には出ていない人達。いなサバ漁の時期だけ漁に出る、とかね。
 定置網が二ヶ統ある他は、一本釣り(曳き縄、延縄含む)を生業とする小漁師ばかりで、漁協トータルの水揚げ高も当然それなり。冬場の漁期には、主にサザエを採取する素潜り漁を行なう漁師も少なからず居る。
 “根付き”と呼ばれる貝類や海藻類等の磯資源は、昔から地先(地元)の漁協(漁業者)へ対して占有的に漁業権を与えるというのが日本の水産業のやり方。素潜り漁の漁獲対象となっている水産物については、漁期を各漁協が定め、それなりに資源保護を考えながら?漁業を営んできた。移動性の乏しい水産物は、獲り過ぎると顕著に資源量が減少することを経験的に学んできたということやろうなぁ。回遊性のある魚に関しては、なかなかそういった考えが働いていないが。

 伊奈漁協も地先の漁業権を保有し、素潜り漁を行ないたい漁師が行使料を漁協へ納め、漁を行なっている。伊奈漁協は、北に佐須奈(さすな)漁協、南に上県(かみあがた)漁協という二つの漁協と地理的に接しているのだが、南の上県漁協とはお互いに地先の漁業権を共有するという取り決めがなされている。すなわち、それぞれの漁協組合員は、もう一方の漁協内の地先で素潜り漁を行なって良いということ。
 ちなみに、一本釣り漁に関しては漁協の縛りはほとんど無く、対馬島内、いや日本全国どこへ漁へ出かけても良い。延縄や曳き縄(トローリング)も一本釣りの範疇に入るので、これらの操業も基本的にOK。一部区域を定めて漁期や釣り鈎の数などを定めているところもあるようなので、そこは注意が必要。
 ついでに言うと、刺し網やカゴ、アナゴ筒漁などは許可制漁業なので、勝手に行なう事はできない。

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 で、肝心な魚突きの話。この辺りでは冬場にサザエ漁をやる漁師が、仕事のついでに自家消費用の魚を突いたりはあるが、漁協に出荷するために魚突きをする人は、ほんの数人しか居ないというのが現状。昔は居ないことはなかったらしいが、まぁ網や縄に比べると、あまり効率の良い漁法ではないので、当然といえば当然か。魚突きが文化としてほとんど無いという感じ。
 日本では沖縄や奄美といった亜熱帯海域で魚突き漁が盛んで、北に行くほど魚突き漁師が少ない(個人的な感覚だが、まぁ確からしいと思う)。水が冷たいから、理由はこれに尽きると思うが、今はウェットスーツもあるし、対馬でも冬は15℃台まで水温は下がるが、これくらいなら意外にイケるということが、去年実際に冬場の漁をやってみて分かった。なので、文化として無い、という表現がしっくりくるかな。

 元々趣味で魚突きを10年くらいやっていたので、当然対馬でもやるか、やるかでしょ!と意気込んでいた。魚突きめっちゃ楽しいもんね。意外に知らない人も多いので一応書いておくと、魚突きを遊漁(遊び)として行なうことは各都道府県の漁業調整規則等の法律に則っている限り、違法ではない。遊漁として釣りをするのと、なんら変わらないってこと。でも魚突きをやっていると、何も分かっていない漁師から文句を言われたりするのは度々で、そういうのはやっぱテンション下がるから、逆の立場の漁師になった今、気をつけたいよね。海は漁師のものではなく、みんなのもの。使って良い漁具や道具は各都道府県で色々異なるので、魚突きをやる人はきちんと自分で調べてね。
漁として魚突きを始める前に県の水産課へ問い合わせて、問題ないことを確認したので、バンバン(というほどでも無いけど)魚を突いて、直販のお客さんへ送ってたのだが。
 しばらくして他の漁業者からクレームがついたらしく、魚突きをやめてくれないか、と漁協を通して話があった。詳しい事は分からないが、サザエの漁期以外に潜っていたので、密漁しているのでは無いかと疑われた、ということのようである。一つ断っておくと、漁協の職員は知識がないわけでは無く、魚突きを漁業として行なうことが違反でないのは当然理解している上で、地域コミュニティで慣行に無いことをするのに理解を得るのは簡単なことではないから、反発を招かないように上手く立ち回る必要がある、とアドバイスも含めて伝えてくれた。また、クレームを言ってきた漁師へも、魚突きは違反ではないことを伝えてくれたようだが、理解はしてもらえなかった、ということだった。

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 困ったなぁ。権利として認められていることをやっているのにケチをつけられるのはイラっとするし(気短いんで笑)、魚突きを漁として始めるにあたって色々と親切に教えてくれた地元の先輩魚突き漁師に迷惑が飛び火するのは、どうしても避けたい。これまで先輩漁師らが魚突き漁を行なってきた時には、このようなクレームが出なかったことを考えると、オレが魚突きを始めた結果であるのは明らかなので。この辺りは田舎によくある同調圧力というか、誰かが新しく目立った事をしたり、一人勝ちしたりするのを嫌う風潮みたいなもんで、正直くだらんな、と思うけど、まぁそういうもんと思って、ある程度はスルーする能力も大事(なんだろうなぁ)。自分(達)の主張だけを通そうとする気はさらさらないけど、新しい事や若い感性、異なる意見を受け入れない空気というのは違和感を感じざるを得ないけどね。これは自戒も込めて。
 ※正直叩かれるほど儲けられてはないが(一人勝ちするつもりもないけど)。これ謙遜ではなく、マジな話なんで、2020年はいかに収益を上げていけるか、会社としても個人としても試される年やと思うので、出来ることを良いタイミングでしっかりとやってこ。

 結局魚突きの件は、伊奈漁協と上県漁協との合同理事会で話し合いがなされ、周年操業OKという結果になった。マジで良かった。大丈夫とは思っていたけど、一旦決まりができてしまえば、従う他ないし、結構ドキドキしていたのが本音。素潜り漁の漁期を公示する口開け表に、サザエの解禁期間などとともに魚突き漁についての一文が書き加えられ、晴れてケチつけられることなく操業ができるように。2020年は10kgのクエを突くこととそれを動画に収めることが一つの目標。

口開け表編集済.001


 魚突きは効率の良い漁法とは言えない、と書いたが、なんでそれをわざわざやるの?みたいな話は、また改めて書くことにするよ。

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