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推しから来たメール③ 2023/03/02

〜2021年に解散した韓国のアイドルグループの推しの思い出を綴るnote〜

推しはとても観察力に優れている人だった。

私は最初の頃は自宅の寝室でヨントンをしていたが、家族に聞かれるのが嫌で会社の会議室でやるようになった。

家族経営の小さな会社で、片付けたい仕事があるからと1人で休日出勤しても怪しまれることは無かった。

ヨントンの時間まで仕事をして、時間になると会議室にノートパソコンをセットしてオンラインライブを見る。
オンラインライブはマンネリで、回数を重ねるごとにメンバーのモチベーションが下がっていく様子が悲しかった。

初めて会社でヨントンをした日、推しは通話が始まると不思議そうな顔をした。

『ハルさん、今日は場所が違うね?後ろの壁が違う』

その記憶力と観察力に驚いた。
壁紙の色まで覚えているなんて。

「いま、会社にいるの。今日は仕事で…」と答えると、『日曜日なのに、休みじゃないの?』と鋭い質問をする推し。

「仕事が終わらなくて、本当は休みだけど仕事してるの」と嘘をついた。

『会社でこれ(ヨントン)やってもいいの?』と、心配そうに訊く推し。

「今日は私しかいないし、この会社は私の家族が社長だから大丈夫だよ」と答えると、『本当?いいじゃーん!』と笑っていた。

推しがメールアプリの返信をしなくなったという話を知った後も、ヨントンは毎週のように開催された。

推しへの不満を口にするファンはだんだん増えていった。

推しの"オキニ"だと私が勝手に思ってる同担さんも、返信が来ないと言っていたと友達から聞いた。
あの子にも返信しないなんて、、、

ヨントンで顔を合わせるのは気まずくないのかな、と余計な心配もしてしまう。

そんなある日、その日も私は会社でヨントンをした。

推しから着信が来て通話が始まると、推しは「あー!ハルさんまた会社?いーけないんだ」と茶化しておどけていた。

それから、いつも通りオンラインライブの感想を話して楽しく時間が過ぎた。

そろそろ制限時間かという頃、推しは画面をじっと見て「ねぇハルさん、、痩せた?」と唐突に質問した。

確かに私はその頃、急激に体重が落ちていた。しばらく前から体調が悪く、病院で検査をすると甲状腺の病気が再発していたとわかった。

食べても食べても日に日に体重が落ちて、3週間ほどで4キロ減っていた。

推しが「痩せた?」と言ったのは「痩せて綺麗になった」という意味で言ったのかと思って、「うん!4キロ痩せたよ!」と得意げに答えた。

すると推しは、『ダメ!ハルさん、ちゃんと食べて!ダメです!」と語気を荒げた。

予想外の反応に面食らってしまった。
「う、うん。わかった。ちゃんと…食べるね」と答えたところで制限時間のアラームがなった。
またね、と言って通話が終了した。

通話終了の画面を見ながら、しばし茫然とした。
そんなにやつれて見えたのかな…
鏡を見ても自分ではよくわからなかった。
きちんとチークも塗ったし、いつもはつけない口紅も塗ってある。

その頃体調は最悪で、動悸と息切れが酷かったけれど、ヨントンの時はそんなことを忘れていたから、推しの言葉は想像していなかった。

私は…久しぶりに推しにメールアプリを送ることにした。
推しがこの数週間、ファンのメールに返信していないことはわかっていたが、返信がこなくてもかまわないから推しに伝えたかったのだ。

翌日、何度も翻訳機にかけてメールの下書きを作った。推しのプレッシャーにならないように、返信をしなくても良いような書き方になるように考えた。

昨夜はヨントンの後、ヤンニョムチキンを食べたこと。痩せたのは甲状腺の病気のせいだけど、ちゃんと病院に行って、薬を飲んでいるから大丈夫なこと。気づいてくれて嬉しかったこと。

ヲタクが太ろうが痩せようが、アイドルにとってどうでも良いことだし、痩せた理由なんて興味などないだろうとわかっている。

私は…推しにメールを送る"理由"が欲しかったのだ。

臆病な私は、そんな理由がないとメールを送ることが出来なかった。メールを送られた推しは、迷惑だったかもしれないけれど。。

続く。

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