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推しから来たメール⑥(終) 2023/04/02

〜2021年に解散した韓国のアイドルグループの推しの思い出を綴るnote〜

推したちのグループは、2020年3月に韓国でデビューした。
韓国の新人アイドルはデビューすると、3ヶ月スパンで次の活動曲を発表することが多いが、小さな事務所のアイドルは資金力が無いために2曲目を出せないまま消えていくことも珍しくない。

推したちのグループも、中々2曲目を出すことが出来なかった。

そんななか、彼らは新曲を出すためのクラウドファンディングを始めた。

クラファン達成のリターンは、サイン入りアルバムやスローガンタオル、ヨントンなどだった。

私はもちろん参加するつもりだったが、中には彼らの事務所の経済状態から、集めた資金を社長が流用するのではないかと怪しんでいる人もいた。

私も、その可能性は否定出来ないなと思っていた。

スタッフへの報酬未払いの問題は解決されないままにもかかわらず、社長は次々と新しい事業を始めていた。
いったいそのお金はどこから出てくるのか不思議でならなかった。

もしかしたら、クラファンが達成されてもリターンは実現しないまま逃げられるかもしれない、と私も考えていたけれど、彼らが次の曲を出すには他に方法がないのが現実だ。

だから私はクラファンに出資した。
金額は確か3〜4万ほどだったと思う。

締切の期限が迫っても、達成までにはだいぶ金額が足らなかった。
知人は、締め切りギリギリに申し込むと言っていたから、様子見のファンも多そうだった。

ヤキモキしていたけれど、締切直前にクラファンは目標金額を達成した。

本当に新曲を出してくれるのだろうか、、、
半信半疑だったが、彼らは新曲を出すことが出来た。

サイン入りアルバムも届いたし、きれいなスローガンタオルも送られてきた。
ヨントンも約束通り開催された。

幻想的な曲にぴったりな素敵な衣装、ダンスの振り付けは韓国の有名ダンスチームだ。

約束通りのリターンと新曲の発売。
事務所への不信感が、少し和らいだ。

だけど、新曲を発売しても活動らしい活動は出来なかった。
少しずつ対面サイン会が解禁されたものの、まだまだ大人数が集まるようなイベントは難しく、日本への渡航制限もいつ解除されるのか見通しは立たなかった。

そして、ずっと提携関係にあった彼らが新大久保で活動していた頃に所属していた日本の事務所が、彼らの事務所との関係を解消すると発表された。

これは流石にショックだった。
もう日本で活動することは不可能かもしれない。

彼らが所属する韓国の事務所には日本語の出来るスタッフはいないようだし、日本とのコネクションも無さそうだった。
加えて、日本向けの活動には消極的に見えた。

韓国国内のみで食べていけるアイドルなんて、存在しないのが現実だ。
もう本当に終わりかもしれないと、思い始めた。

そんな中でもオンラインライブやヨントンは毎週あって、私は心配でたまらなかったけれど、ヨントンではマイナスな話は一切しないと決めていた。

新曲の話や早く会えるようになるといいね、と前向きな話だけをして、もしも急に推したちが活動出来ない状況になったとしても、後悔しないように楽しもうと胸に誓った。

私は、久しぶりに推しにメールを送ろうと突然思いついた。

書きたいことがあったわけではない。ただ何となく思いついただけ。

知り合いのヲタクが、今の状況について心配するメールをメンバー全員に送ったそうだが、推しからは返信がなかったと言っていた。

私は、彼らの事務所が抱える問題など知らないフリを、最後まで貫くつもりだった。

『最近どんな曲を聞いてるか、お勧めがあったら教えてね』と、メールで送るほどでもないありきたりの質問を送った。

推したちの状況を正確に知っていたわけではなかったけれど、どう考えても幸せな状況では無さそうだったから、推しの負担になるようなことは書きたくなかった。

意外にも返信はすぐに届いた。

メール受信の通知が届いてアプリを開くと、すぐに2通目が届いた。

???

2通もメールがくるなんてどういうことだろう。
不思議に思って受信箱を確認する。

<1通目>
最近僕が聴いているおすすめの曲は、틴탑の

<2通目>
놀면 돼をよく聴いています

2通届いたのは、1通目の途中で間違えて送信ボタンを押してしまったからのようだ。
慌てて2通目を送る推しの姿を想像して、思わず笑みがこぼれた。相変わらず短い返信だなぁと苦笑い。
でも返信をくれたことが、とても嬉しかった。

ただ、最近のおすすめが틴탑(TEENTOP)の曲だったことに、少し不思議な感じがした。
TEENTOPは2010年にデビューしたアイドルグループで、놀면 돼(Let's play)という曲は2018年に出した曲だった。
最近の流行りの曲じゃないところが推しらしいな、と思ったけれど、推しは歌詞の良い曲が好きで歌詞の意味を大切にする人だから、どちらかというとチャラ男イメージなこの曲をおすすめだと書いたことに少し違和感を感じた。

しかし、歌詞の日本語訳を検索してみると、何だかとても意味があるような気がして、何度も読み返した。

君の感じるままに
聞いているじゃないこの歌を

なすがままに身を任せて
流れるままにそよそよと軽やかに
良くない気分は捨てて
今日僕は君という海の中を泳いで
僕は 気持ちよく泳いで


君は悩まないで
何をするべきなのか
そんなこと考えないで


あえて何をしようと
君は悩まないで
何をどうしようかと?
ただ遊べばいい

僕たちは遊べばいい

No そんな質問
ただ遊べばいい
僕たちは遊べばいい

時間は過ぎて行く
僕たちが眠る時も
時間は過ぎて行く
深夜 休むときも
時間は過ぎて行く  だから


僕が言いたい言葉
まずは狂ったように遊べばいい


君の感じるままに
聞いているじゃない この歌を
それじゃ 感じるままに


君も知ってるじゃない
その気分を
なすがままに身を任せて
流れるままに
そよそよと軽やかに
良くない気分は捨てて


君は何をしなくても美しい
今日やるべきことは置いといて
遊んで


何をするべきなのか
そんなことは考えないで
あえて何をしようと 君は悩まないで
何をどうしようかって?
ただ遊べばいい
僕たちは遊べばいい


No そんな質問
ただ遊べばいい


僕たちは遊べばいい
時間は過ぎて行く


僕たちが眠る時も
時間は過ぎて行く
深夜 休むときも
時間は過ぎて行く  だから
僕が言いたい言葉
まずは狂ったように
遊べばいい


No 心配はここまで
すべて忘れたまま
感じるままにして、望むままにして


No そんな質問
ただ遊べばいい 
僕たちは遊べばいい

時間は過ぎて行く
僕たちが眠る時も
時間は過ぎて行く
深夜 休むときも


時間は過ぎて行く だから

僕が言いたい言葉
まずは狂ったように


遊べばいい

TEENTOP「Let's play」

根拠などないけれど、これは推しの心の叫びのような気がした。

不安な気持ちを紛らわすために、ヨントンでもわざとおどけて見せているような気がするのだ。

そして「心配しないで、何も考えないで」というメッセージかもしれないと、勝手にそう思うことにした。

推しは相手の気持ちを敏感に感じ取る人だから、何も言わず知らないフリをしても、わかっているような気がした。

そう。
私が心配しても、どうにかなることでは無いのだ。

推しが今この瞬間を楽しく過ごそうと思っているなら、私もそうしようと思った。

ヨントンでは明るい話だけをして、いつも笑って話そう。
それだけが、私が推しにしてあげられる応援の方法だから。

結果的にこのメールが、推しがくれた最後のメールになった。

最後のヨントンまで、残りあとわずか。
最後のその日まで、それが最後になるなんて思わなかったけれど。

私は最後まで、笑っていられた。

<終わり>

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