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推しのハグ会に行かなかった話。2022/04/07

推しのグループの特典会は、新大久保では珍しく接触NGな特典会だった。

どの程度を"接触"というのかは、人によって線引きが違うかもしれないけど、ここでいう接触とは、顔をくっつけてチェキを撮ったり、肩や腰に手を回させてチェキを撮るような行為のこと。

手を繋いだり腕を組むのは、運営に細かく確認していないから実際どうなのかはわからないが、ファン同士の雰囲気的にはNGのような感じだった。
(何アレ、という目で見られていた)

その他の禁止事項としては、メンバーの顔や体に触れる行為はNGとか、暴言NGというのがあった。
わざわざ禁止だと告知しないと、そんな行為をするファンがいるというのが、この現場の実情だった。

新大久保では、接触NGでお客さんを集めるのは大変なことだ。
多くの客は、それを目当てにやってくる。
特典会に来て初めて接触NGだと知って、怒って帰る客もいた。
それでも推しのグループは、接触NGを貫いていた。

最初の年のクリスマスに、コンサートを開くことになった。

SHOWBOXよりも大きな会場の単独コンサート。

夢みたいな気持ちでホームページの告知を読んだが、一気に気持ちがしぼんだ。

ホームページにはコンサート終了後の特典会の案内が書いてあって、2万円のmeet&greetの特典は、希望するメンバーとのハグ会だった。

ハグ会か。。

私は暗い気持ちになった。

来日した年の夏、事務所の代表と立ち話をする機会があって、その時、代表はこんな話をしていた。

「私もどんなことをすれば新大久保で稼げるかは、わかっているんですよ。だけどあの子らにそういうことをさせたくないんです。」

接触行為を禁止している理由を、こう話していた。

あれから数ヶ月。

大阪進出や、ファン離れ、いろんな事情が重なってハグ会をやると決めたのだろう。

実際、他のグループと掛け持ちしているファンは沢山いるが、推しと接触出来ない欲求不満を、他の接触グループで満たしている部分があると思う。

掛け持ちしていた子が、他グループではこんなに密着してチェキを撮るんだよと得意げに話していた。

私は推しに、接触アイドルになってほしくなかった。

そういうことを売りにしてファンを集めるアイドルではなく、パフォーマンスで人気が出てほしかった。

「とうとうハグやらされるんだwかわいそうww」とSNSで書かれたことも、「新大久保ドルだから仕方ないよね」と訳知り顔で言われたことも、辛いけど仕方ない。

そうせざるを得ない事情があるのなら。

私はヲタ友に、特典会は行くけどハグ会は参加しないと伝えた。ヲタ友もやりたくないと言っていた。

私もヲタ友も、推しにそういうサービスは求めていなかった。

meet&greetの特典チケットは2回公演とも限定50枚。当日は早くから行列が出来て、すぐに完売になった。

私とヲタ友は、ハグ会無しの特典券を2万円分購入した。

ハグ無しでも、売り上げに貢献したいというただの自己満足だ。

推しがハグ会をすることをどう思っていたのかはわからないけど、メンバーの中には潔癖症の子もいたから可哀想だな、、と思った。。

単独コンサートはハプニングもありつつ、無事に終了。推しのソロステージはとてもかっこよかった。

そして公演後、特典会の開始前にmeet&greetが行われた。

緊張した面持ちで並ぶ50人のファン。meet&greetは客席からは見えないようステージ袖で行われた。

ハグを終えて戻ってくるヲタクたちは、皆、異様なほど興奮していた。中には泣いてるヲタクもいた。

私は冷めた気持ちでそれを見ていた。

このまま推しは接触アイドルになってしまうのかな、、と私は暗い気持ちになった。

推しはハグ会なんて何とも思っていないかもしれない。そんなことで稼げるなんて楽でいいやと思っていたかもしれない。

可哀想。

そんなことを思うのは推しに対して失礼だとわかってる。仕事なのだから。すべてはお金を稼ぐためだ。韓国でデビューするための資金を稼がなくてはならないのだから。

でもこのまま接触アイドルになってしまったら、推しへの気持ちが離れてしまうような気がした。

しかし、私の心配は杞憂に終わった。

ハグ会はこの一回限りだった。翌年の単独コンサートではハグ会はやらなかったし、その後のSHOWBOX公演でも、前と変わらず接触禁止の特典会だった。

ハグ会が一度だけだったことで、ヲタクたちからは『メンバーがもうハグ会をしたくない』と拒否したのではないかという憶測が広まっていた。

とあるファンが翌年、代表にその理由を直接訊いているところを偶然目にした。

「どうして今回はハグ会しないんですか?楽しみにしてたのに。メンバーたちが嫌がったんですか?」

代表は笑いながらこう答えていた。

『違いますよ。あの子らはやりたがってたけど、ハグ会はやらないでほしいとファンからクレームのメールがあったからやめたんですよ。』

私は隣でその話を聞きながら、吹き出してしまいそうだった。

もしメンバーが拒否したとしても、それを正直に言うはずは無いだろう。ファンからのクレームでハグ会をやめたなんて嘘だろうな、と思った。

誰も傷つかず、誰も恨まれない。

ハグ会の無い翌年のmeet&greetは、完売こそしたもののだいぶ売れ行きは悪かった。

ハグ会が無いから単独コンサートには行かない、というヲタクもいた。

どういうことをすれば稼げるかということは私もわかってるんですよ、と言っていた代表が少数のクレームでハグ会をやめるとは思えない。

大多数のヲタクがハグ会を望んでいたのだから。

そもそもそんなクレームなど無かったのではないか。そう勘繰ってしまう。

結局本当の理由はわからないけど、私はハグ会に行かなかったことは後悔していない。行かなくて良かった、とすら思っている。

ただの、自己満足だけど。

3年後、推しのグループは解散し、他の接触アイドルは生き残っている。果たしてどちらが良かったのだろうか。

接触でも何でもしてヲタクの心を繋ぎ止めて、課金させたほうが賢いやり方だったのかもしれないな、と今は考えたりもする。

だけど、あのまま接触アイドルにさせなかったことを私は代表に感謝している。

最後までその姿勢を貫いてくれたことに、感謝。

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