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推しから来たメール② 2023/02/23
〜2021年に解散した韓国のアイドルグループの推しの思い出を綴るnote〜
その『アイドルとファンが直接メールのやり取りが出来るアプリ』は、なかなか会う機会がないアイドルだったなら、プレミア感のあるサービスだったと思う。
しかし、毎週のようにヨントン(オンライン映像通話)が開催される状況では、アイドルにとってはプレッシャーになっていたような気がする。
メールアプリを開始して2ヶ月くらいの頃だっただろうか、、、、
私はほぼ毎週ヨントンに参加していたのだが、金銭的に厳しかったこともあり、いつも2分や3分のチケットを購入していた。
5分のヨントンチケットは特別な時だけ、と決めていた。
ヨントンの順番は、5分のチケットから始まり、画面に待機人数が表示される仕組みだった。
その日も私は2分のチケットを買っていて、パソコンの前で待機していた。
推しは多分、メンバーの中でヨントンの参加人数が1番多かったと思う。人数と時間から換算すると、5分のチケットの人が多かった。
私のように2分のチケットを買うファンは、少なかったと思う。だから1番最後になることが多かった。
待機人数がだんだん減っていって自分の順番になったが、なかなか着信が来なかった。
どうしたのかな、と不思議に思っていたらLINEの着信音が鳴った。(LINEの映像通話を使用したヨントン)
通話ボタンを押すと、イヤホンマイクをつけた推しが出た。毎回この瞬間が好きだった。キラキラの笑顔で「ハルさーん」と言いながら出てくる推し。
だけどこの日は、推しの様子が変だった。
いつもは通話が始まると戯けた感じでテンションが高いのに、この日は何だか沈んだ様子だった。
「推しくん、アンニョン〜、お疲れ様」と声をかけると、「ハルさ〜ん」と少し笑ってくれた。
でも様子が変だ。
いつもは真っ直ぐに画面を見て話してくれるのに、俯きがちだった。
胸がザワザワとざわついたけれど、私はいつもと同じようにオンラインライブの感想を話し始めた。
すると推しはようやくいつもの笑顔になって、茶目っけたっぷりに応じてくれた。
良かった、いつもの可愛い推しに戻った。
私は内心ほっとした。
そして「あ、ハルさん、お菓子ありがとう」と手紙と一緒に送ったお菓子のお礼を言ってくれた。
アラームが鳴り短い通話はあっという間に終わって、「またね、バイバイ〜」と手を振ると、推しは満面の笑顔で「うん、バイバ〜イ、ありがとう」と手を振りながら変顔をしたりして笑わせてくれた。
通話が切れると、私は心臓がドキドキしていた。
何かあったのかな、、
推しの沈んだ様子が気になった。
その日の夜、知り合いからLINEが届いた。
推しからメールアプリの返信が来ているか、尋ねる内容だった。
私は『アプリの登録をして最初に送っただけで、その後は送ってない』と返信した。
例の、ココの死を知らせた手紙に推しがメールアプリで返信をくれたことは、私からアプリでメールを送ったわけでは無いから、その事は言わなかった。
どうしてそんな事を訊くのか尋ねると、ここ1.2週間ほど彼女の友達が推しにメールを送っても、返信が来ないのだそうだ。
それも1人だけじゃなく、彼女の知り合いが何人もそう言ってるのだと。
(彼女は別のメンバーのファン)
他のメンバーはファンのメールに返信しているそうだが、推しだけ返信していないようだった。
『そうだったんですか…どうしたんでしょうね』
それなら尚更、つい最近推しがメールをくれたことは言うまいと思った。
そんなことが知られれば、推しが責められてしまう。
彼女は、自分の推し以外のメンバーに対していつも辛辣だった。
「あいつは甘えてんですよ。こっちはお金を払ってメールを送ってるのに、返信しないなんて甘えてる。どうせそうなるだろうと思ってたけど。」
私もいずれ返信は滞るだろうと思っていた。
確かに甘えてるとは思う。全てに返信すべきとは思わないが、仕事なのだから少しは返信すれば良いのに、と。
一体どのくらいのメールが来ているのか知らないが、推しにメールを送っている人はたくさんいたと思う。
元々面倒くさがりの性格で、SNSもほとんどしない、メールの返信なんて推しには向いていない仕事なのだ。
それから、彼女がこう教えてくれた。
「友達が今日のヨントンであいつに直接訊いたんですよ。何でメールの返事をくれないのかって。」
『本人に?直接?』
「そしたら、忙しかったと言ってたって。メールの返信も出来ないほど忙しいわけないのに。友達は、みんなお金を払って送ってるんだから、ちゃんと返信してって言ったみたいです。」
推しが今日、様子が変だった理由がわかった気がした。
なぜ返信をしないのか本当の理由はわからないが、そうやってヨントンの間、責められていたなんて。
もしかしたら、返信が来ないことを他のファンにも責められていたのかもしれない。
考えてみると、推しが画面に出てきた時に俯きがちだったのは、私も同じように説教をするのではないかと身構えていたのではないか。
だけど、私が全くメールアプリのことに触れなかったから、安心していつもの明るい推しに戻ったんじゃないかなと、そんな気がした。証拠は無いけれど。
お願いだから、推しを追い詰めないで。
私は心の中でそう願った。
返信が来ないことを不満に思うファンの気持ちも理解できる。しかし、アプリの注意事項として『アイドルからの返信は確約できない』と書かれているのだ。
アイドルの自由意志です、と。
返信が来ないからと言って本人を責めるのは、アプリの趣旨と異なっている。
推しはファンに責められた後も、返信していないそうだ。
推しの性格からいって、そうやって責めれば責めるほど心を閉ざしてしまうだろう。
しかしまた1週間後にはヨントンがあって、そのファンと顔を合わせることになる。
仕事だと割り切ってさっさと返信すればいいのに、と思うけれど、、、
単に面倒なだけだとは思えなかった。だってこれは仕事なのだから。
何か理由があるはずだ。
この先もきっと、メールアプリの返信を催促するファンは後をたたないだろう。
理由もわからないし、私にはどうすることも出来ない。
後から知ったことだが、この時、彼らが置かれていた状況は酷いものだった。そんな素振りはまるで見せないで、いつも明るく楽しませてくれた推し。
その辛さに、気づいてあげれば良かった。
つづく。
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