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映画鑑賞2024

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2024年5月の記事一覧

『悪は存在しない』短調の血脈

『悪は存在しない』短調の血脈

 ※ネタバレしています。何を持ってネタバレというべきかわからない作品だけど

 日本の映画監督・濱口竜介監督の2024年作品。
 映画の感想というのは、物語の後から見た立場から最初まで振り返って、最初から知っていたという風に語れるものだけれども、今回は、観ていた時の自分の心の動きになるべく忠実に書いてみたいと思う。
 まずタイトルが出る。EVIL DOES NOT EXIST。タイトルの色使いがゴ

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『エドガルド・モルターラ/ある少年の数奇な運命』とユダヤ教

『エドガルド・モルターラ/ある少年の数奇な運命』とユダヤ教

 1858年にボローニャで起きた誘拐事件と、その背後に潜む宗教的対立を描いた史劇。マルコ・ベロッキオ監督。
 私、今回デヴィッド・I・カーツァー著『エドガルド・モルターラ誘拐事件 少年の数奇な運命とイタリア統一』(早川書房)という本を読んでから観たんですね。初日初回に。多分、これくらいのテンションで挑んだ人あまりいないんじゃないかと。で、正直なところ、これだけ、自分から前のめりになってこのくらいの

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『オッペンハイマー』は観客にどこまで求めているのか

『オッペンハイマー』は観客にどこまで求めているのか

 多分最遅レビューではなかろうか。原始爆弾の開発者であるJ・ロバート・オッペンハイマーについて描いた伝記映画。クリストファー・ノーラン監督。
 ノーランは得意な監督ではないか、割と楽しめた。ただ、自分は原作に該当するカイ・バードとマーティン・シャーウィンによるノンフィクション本『オッペンハイマー:「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』(早川書房)を先に読んでいたので、ある程度エピソードの理解に混乱

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『ゴーストワールド』はメロドラマである

『ゴーストワールド』はメロドラマである

 2001年製作。近年リバイバル上映されているらしく、大学生の時以来に鑑賞。平日の夜ではあるが大型連休の間ということもあり、結構な客入り。しかも若い観客が多かった気がする。
 さて、感想。この作品はよくコメディ映画に属される。映画レビューにありがちなクリシェに、本人的には悲劇的な経験を距離感を持って眺めているさまを「実はコメディです」というのがあって、死んでも使ってやるものかと思っているのだけれど

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