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だれが日韓「対立」をつくったのか(最終回)日韓交流がつくる未来 「#好きです韓国」から見えた無自覚の偏見と日韓連帯の鍵

阿部あやな(一般社団法人「希望のたね基金」運営スタッフ)個人note 

歴史も政治も知らない私たち

2019年9月。今日もテレビの報道番組では日韓対立に関するニュースが流れ、インターネット上では相変わらず「嫌韓」意識を煽る差別的な発言が吹き荒れています。あいちトリエンナーレ〈表現の不自由展・その後〉展示中止や小学館『週刊ポスト』の「韓国なんて要らない」特集に抗議した在日コリアンの友人たちのツイッターのコメント欄には「日本から出て行け」というリプライが数え切れないほど投稿されていました。

一方で、日本人の友人との会話では、日韓の話題に触れたがらない人が多く、「難しい問題だよね」「よくわからない」の一言で片づけられてしまいがちです。
今年の初めに、韓国旅行の計画について親に話した時は「何でよりによって韓国なのか」と怪訝そうな面持ちで問われ、「歴史も政治も知らずに勝手なことを言わないで」と声を荒らげてしまったこともありました。自覚的・無自覚的な違いこそあれど、「嫌韓」意識が自分の身近なところまで深く根づいていることを日々実感しています。

今回、「日韓交流がつくる未来」というテーマで寄稿の依頼をいただきましたが、私が韓国の歴史や文化に関心をもって活動を始めたのは、今年に入ってからのこと。実は韓国に行ったことも一度しかありません。3月下旬に、「希望のたね基金」が運営するキボタネ若者ツアーの参加者として渡韓したのが最初です。
キボタネ若者ツアーとは、日本軍「慰安婦」問題をテーマにした18~29歳の日本の若者が対象のスタディツアー。「戦争と女性の人権博物館」や「正義記憶連帯」、「植民地歴史博物館」などを訪問し、日本の学校教育やメディアの報道では知ることのできない日本軍性奴隷制問題の歴史を学ぶプログラムとなっています。


そこで初めて「慰安婦」問題と向き合うことになった私は、自分の無知さを思い知らされると同時に、この問題を解決するためには、自分を取り巻く社会の常識がひっくり返る必要があることに気づき、衝撃を覚えました。
日本社会が歴史的事実を“なかったこと”にしようとしていること、被害者たちの存在や支援者の声を排除しようとしていること、そして無知がそれを助長させる危険な姿勢であることなど、あらためて自分自身に問い返す機会となりました。
なので、私が韓国について、日本と韓国の関係について話せることはまだすごく少ないです。それでも日本に帰ってきてからは、毎日韓国に関する話題を調べて学び、今は希望のたね基金の運営スタッフとして日韓交流プロジェクトのお手伝いをしています。

ツイッターで物議を醸す「#好きです韓国」

最近の動きでとくに気になったことと言えば、7月下旬からツイッターで拡まった「#좋아요_한국(好きです韓国)」というハッシュタグです。
これは日本人ユーザーが韓国の好きなところや韓国旅行での思い出などをツイートするもので、「政治的対立があっても民間同士の交流は続けよう」という思いが込められています。さらに、このハッシュタグへのお返しとして韓国人ユーザーが「#좋아요_일본(好きです日本)」というタグをつくり、双方の民間交流のアピールは加速しました。ツイートを見ると、とくに若い世代のユーザーの間で流行していて、アイドルやグルメの話題が活発に投稿されつづけています。

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新大久保の韓流ショップ(CC by jun560

日本と韓国の友好を願うという同じ目標を見ている人たちを否定して何が残るでしょうか。歴史的知識が乏しかったとしても、現状に対して声をあげはじめた彼ら彼女らこそ日韓連帯の鍵になるのだ、とつね日頃から考えていたためです。
そんな「#好きです韓国」が物議を醸す一方で、「#嫌いです韓国」という醜悪なハッシュタグも生まれ、ツイッターは混沌とする日韓関係をさらに荒廃的に映し出しました。

自分のなかに根づく「好きと嫌いの物差し」

9月17日付の『朝日新聞』の記事「韓国『嫌い』、年代上がるほど多い傾向 朝日世論調査」で発表した世論調査によると、韓国を「好き」と答えた人は13%、「嫌い」が29%、「どちらでもない」が56%という結果だったそうです。
この記事を見た時、そもそも一つの国に対して「好きか、嫌いか」というアンケートが成立すること自体が異常で、相手を対等に見ていない差別的な行為だと感じました。こんな調査が実施され、報道される世の中であることが恥ずべき状態であるのは間違いないでしょう。眉をひそめながら調査結果を確認すると、世代別の結果では、「嫌い」と答えた人は高年齢層に多い傾向で、70歳以上は41%が「嫌い」と回答していました。

(外部記事)「韓国「嫌い」、高齢層に多く 朝日新聞社世論調査」

冒頭にも書いたとおり、テレビなどのマスメディアで報じられる韓国関連のニュースは、ネガティブな面が切り出されるケースが多いのが現状です。そんな偏向報道を続けるマスメディアから日々の情報を得ている人たちのなかには、「嫌韓」意識がしっかり植えつけられているという結果を如実に示していました。さらに、「どちらでもない」と回答した無関心層の多さについても、日々実感していることなので驚きはしませんが、こうして数値化されるとやはり脱力感におそわれました。

この調査結果に辟易としながらも、頭をよぎったのはハッシュタグ「#好きです韓国」のことでした。そう、「好きか、嫌いか」で語るべきことではないのです。「嫌い」にフォーカスした世論調査の記事を読んだ時はすぐにおかしいと思えたのに、「好き」というハッシュタグを見た時には正常な判断ができなかったことに気づきました。
確かに、「好きというだけで韓国を語るべきではない」という意見を最初に見た時は、私自身、手放しで賛成できないと思ったのは事実です。そう思ったこと自体、自分のなかに根づく「好きと嫌いの物差し」で韓国という国をとらえていたということなのだと、恥ずかしさがこみ上げてきました。自分の考えが偏ったものだったこと、問われ方が異なった時になって初めてその偏りが見えてきたという事実に、恐ろしさも覚えます。私もまた無自覚に差別に加担する巨大な社会構造の一部であることを再認識したのでした。

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ソウルの「戦争と女性の人権博物館」(撮影:筆者)


「#好きです韓国」と言う前にやるべきこと

日本社会において、日常会話のなかで政治や社会問題について「語りづらさ」があるのは、多くの人が感じていることだと思います。それでも、近年はSNSの発達などによって情報収集や発信がしやすくなり、議論が起こりやすい環境が育まれているのも事実。そんななかで若者を中心に「#好きです韓国」のハッシュタグを使った発信が盛り上がったこと、タグに関する議論が行われたことはとても価値があると言えます。そして、このハッシュタグが意図するように、政治的対立が激しい今こそ日韓の民間交流を活発に行うべきなのも間違いありません。

もっとも重要なのは、「政治的、歴史的には問題があるけれど、好きだから関係ない」とだけ主張するのではなく、大日本帝国時代の植民地支配の歴史、加えて現代まで続く、日本社会の暴力的な排外主義・差別主義の問題に向き合うこと。韓国の人びとに「好き」と語りかける前に、日本の人びとに対して問題提起し、国内の世論を変えることが急務だと思います。「#好きです韓国」だからこそ、歴史に向き合いつづける姿勢と行動が必要なのです。

先に述べたとおり、かく言う私も日本と韓国が抱える問題について学びはじめたばかり。本書に名を連ねる先輩方や周囲の友人たちからさまざまな知識を得て、考えて、認識の軌道修正を続けている過程です。また、「#好きです韓国」と声をあげはじめた若い世代こそ日韓連帯の鍵になるはずだという考えも変わっていません。
どうか本書を手に取ってくれたみなさんとともに学んで行動していきたい。私たちの手で、今の日本の差別的な「嫌韓」意識が過去のものになる社会を築いていかないといけません。この事実が正確に記録・記憶され、もう二度と繰り返されないものになるように。




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