僕らと命のプレリュード 第39話
15分後、花琳の部屋にはコンソメスープの良い香りが広がった。鍋の中には色とりどりの野菜と鶏肉が入っている。見た目も美味しそうだ。
「よし。完成!」
「おお~!」
柊と花琳は目を輝かせる。
「聖夜君、料理得意なのね!」
「家で作ってたんです。おばさんがよく料理を教えてくれて」
聖夜は照れ笑いを浮かべる。
「何か、美味そうな匂いがする……」
海奈がムクリと起き上がり聖夜の元へ近寄ってきた。
「味見してみるか?」
聖夜はそう言うと小皿にスープを盛り付けて渡した。海奈はそれを受け取り、こくりと飲む。
すると、先程までの元気の無さが嘘のように、海奈の瞳に光が宿った。
「何これ、めっちゃ美味い!」
「そっか、良かった!」
聖夜はそう言って笑って、ふと首を傾げる。
「にしても、何であんなことに……?」
すると、海奈が口を開いた。
「姉さん、料理下手だからいつも俺が作ってたんだけどさ……」
海奈は、そこまで言ってテーブルの上に置かれた黒い重箱に目を移す。それにつられて、聖夜と柊も重箱を見た。
「さっき白雪さんがその弁当をお裾分けに持ってきたんだ。それがすごく美味しくて……それで姉さんも料理頑張るって張り切っちゃって」
「な、なるほど……」
柊が苦笑いしながら花琳を見ると、海奈の傍らで申し訳なさそうに俯いていた。
「あ~……確かに美味しいもの貰うと頑張りたくなるよな」
(……そういうことじゃないだろうけどね)
うんうんと頷く聖夜を見て柊は乾いた笑い声を出した。
聖夜はそれを気にもとめず、両手をパンッと合わせて、明るい笑顔を花琳に見せる。
「まぁ、とりあえず、スープ食べましょう!……って言っても俺と柊は朝ご飯食べちゃったし、他の人を呼んでこようかな」
それだけ言って、聖夜は部屋を出た。
聖夜が出ていったのを確認して、海奈は苦笑いしながら花琳を見る。
「ほんとに姉さんは、思い立ったら即行動なんだから……」
それを聞いた柊は、こてんと首を傾げる。
「そうなの?」
「そうそう。中学生の頃の夏休みに、特部に入るんだって言って俺を連れて本部に直接売り込んだんだよ」
「え、ほんとですか!?」
花琳は頬を赤らめながら頷いた。
「そんなに白雪さんに会いたかったんですね!」
柊は目を輝かせた。
その様子を見て、花琳は慌てて付け加える。
「そ、それもあるけど!もともと海奈を連れて家を出るつもりだったの」
そう言うと、花琳は少し目を伏せる。その瞳は、憂いを帯びて僅かに揺れていた。
「うち、少し変わっていたから」
「変わっていた?」
「うん。……お母さんが完璧主義でね。気も強かったから、誰もお母さんには逆らえなかった。……私はお母さんを嫌いにはなれなかったけど、あの場所には居たくなかったの」
花琳は、そこまで言って苦笑いを浮かべる。
「そうだったんですか……」
「……まあ、姉さんは白雪さんに会いたかった気持ちが強かったんだけどな」
海奈が重苦しくなった空気を和ませようと、明るく笑った。
「み、海奈!」
「今回の料理だって、白雪さんのこと意識して始めたんだろ」
再び顔を赤くする花琳に、柊は生き生きした目で尋ねる。
「そういえば、2人ってどうやって出会ったんですか!?」
花琳は少し溜息をついて、答えた。
「……私が小学1年生の時に、海奈が高次元生物に襲われて怪我をしたの。そこを当時の特部に助けられて、私と海奈は医務室に運ばれて……そこで白雪君に会ったのよ」
花琳はその頃のことを思い出し微笑みを浮かべる。
「海奈が怪我をして泣いてた私を励ましてくれたの。きっと治るよ、大丈夫って。ずっと手を握ってくれた。白雪君のお陰で、気がついたら笑顔になってたの。家では辛いこともあったけど、また会いたい、お話ししたいって思ってたら、何だか頑張れたんだ」
花琳は、幸せそうに微笑みながら、胸に手を当てて目を閉じた。その様子はまるで、大切な思い出を噛み締めているようだった。
「すごく素敵です!」
花琳の話を聞き終えて、柊は目を輝かせる。
「俺は全然覚えてないんだけどな」
海奈は少し頬を掻いて、やがて頭の後ろで腕を組みながら明るく笑った。
「……でも、姉さんがそんなに言うなら、俺は姉さんを応援してるよ」
「私も!……ていうか、今言ったのって白雪さん知ってるんですか?」
柊の問いに、花琳は苦笑いして首を傾げた。
「さぁ……聞いたこと無いから分からないわ」
「なら、それ言いましょうよ!」
「え!そ、そんな……」
「告白より簡単だろ」
海奈の言葉に花琳は少し悩んで頷く。
「……確かにそうね。それに、あの時のお礼はずっと言いたかったかも……」
すると海奈は花琳の肩をぽんと叩いた。
「よし、思い立ったらすぐ行動だ」
「え?」
「ほら、白雪さん探しに行きましょう!」
戸惑う花琳の腕を2人は引っ張った。
「ちょ、ちょっと~!」
海奈と柊に引き摺られる形で、花琳は部屋を後にした。
しばらくして、聖夜が翔太と深也を連れて戻ってきた。
「ただいまー!」
聖夜は元気にドアを開けたが、誰もいない室内を見て首を傾げる。
「あれ?誰も居ない……何で?」
「鍵もかけずにどこ言ったんだ?」
聖夜は戸惑い、翔太は不審そうに言った。
そんな中、深也はテーブルの上に置かれた重箱を見て何かを察する。
「……さ、3人で食べてよう!そのうち戻ってくるかもしれないし……」
「うーん……それもそっか!翔太、どのぐらい食べる?」
「……多めがいい」
「了解!俺もちょっと食べようかな」
2人がワイワイと盛りつけを始めるのを横目で見ながら、深也は苦笑いを浮かべた。
(花琳さん、ご愁傷様……)
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