おいしいもやし

もやしっておいしいですよね。安いし。
食物繊維が豊富とかなんとかで身体にもいい。

恋人が転勤し1か月が経った頃、しばらく彼の家にお泊りできる機会があった。本来の目的は別にあったはずだけど、そんなことどうでもよかった。

大きなスーツケースを抱えて新幹線に飛び乗り、日を跨いだころ改札の向こうにいる恋人を見つけた。とんでもない笑顔の彼は右手に私の好物であるたい焼きをひっさげ、こちらに手を振っていた。
「おかえり」
彼はいつもいつもこう言って家に迎えてくれる。
家族以外に、こんなにあったかく迎えてくれる人が世界にいるとは想像していなかった。家事がてんでできない私を可愛がってくれる彼は、
「最近節約してるの。もやし使った料理開発してるんだよね」
と言いながら、スーツのまま、台所に向かう。
手伝うにしても、言われた食材を手渡すぐらいしかできない私は、情けなくて、でもそんな私を笑顔で迎えてくれる彼の優しさが嬉しくて、後ろから抱きつく。
「危ないからあっちで待っててね。机拭いててくれる？」
頭を撫でられながら大人しく言われたままにするような女の子にしてくれたのは彼だ。

できあがったごま油味の野菜炒めは、私の好みぴったりの味付けだった。