「桜ちゃんと沈みゆく村」本編
※普段もんもんと感じる日本人マインドを物語化してみました。
桜ちゃんの村の経済
桜ちゃんは聡明な女の子。
桜ちゃんの住む小さな村では、
村の全ての10の家が、長老から田んぼを借りお米を作っている。
1年に1200両分の米ができ、それを長老が取りまとめる。
600両はお殿様、
残りの600両が長老の取り分だ。
さらにそのうちの120両を田んぼを借りている10の家で分ける。
1家あたり年で12両、月で1両の取り分になる計算だ。
月1両で生活はギリギリ。
もし体を壊したりして稲を作れないと、
長老からお金はもらえない。
一家もろとも生活できなくなってしまう。
まじめな桜ちゃん一家も毎日毎日田んぼ仕事に精を出した。
遠くの村の噂話
桜ちゃんはある日こんな噂話を聞いた。
なんでも遠くの村では新種の美味しいお米を導入していると。
害虫や天災にも強いそう。
ただ、そのお米には専門的な知識が必要なのと、権利があり、導入したければ480両が必要とのこと。
桜ちゃんはその夜、お父さんにその話をしてみた。
お父さんは
「ほう~」といいながら、遠い星の話を聞くかのように興味が無さそうに聞いていた。
桜ちゃんが、
「うちでもそのお米作らないの?」
と聞いたら、
「いやいや、うちではおじいちゃんも、ひいおじいちゃんも
こうやってきたんだよ。
うちでは1年で12両だよ。
480両なんて夢みたいな大金払えるわけないだろ。
しかも、そのお米って実際良いのかもわからないし。
別に今こうやって生活できているし。」
桜ちゃんは思った、
たしかに480両はうちの世帯年収だと40年分だ。
480両は長老の年間取り分だ、
長老なら工面できるだろうと。
次の日、桜ちゃんは長老に話してみた。
長老はこう言った。
「うちの村ではむかしからずっと
こうやってきたんだよ。
480両なんてお金払う価値があるのか。
しかも、そのお米って実際良いのかも分からないし。
今みんなこうやって普通に生活できてるじゃないか。」
隣の村の変化
ある日、桜ちゃんは仲の良い、隣の村の緑ちゃんからある話を聞いた。
隣の村も、桜ちゃんと同じように長老がいて、
村人は長老から田んぼを借りて米を作っている。
しかし、最近、米を作りながら、畑をやる家が出てきたそう。
なんでも遠いカンボジアという外国から入ってきた「かぼちゃ」という新種の野菜らしい。
なんとも甘いらしく、重宝され、高値で売れるそう。
その野菜の導入の取得費は、種や土地代含め12両。
採れた野菜は年間12両になるそう。
田んぼと合わせると収入は2倍になる。
桜ちゃんはまた、さっそくお父さんに話してみた。
お父さんは、
「12両も払って失敗したらどうなるんだ?
失敗してる奴もいるだろう!?」
確かに、桜ちゃんが聞いた話では
導入した人は10人で
1年目では半分の5人の人が失敗したらしい。
「ほらなっ!」
お父さんは渾身のドヤ顔を決めた。
桜ちゃんは反論した。
「でも村単位でみると、
12両×10人で120両の支出。
半分の5人が成功してるから60両のプラス。
支出120両ー60両で、
今年はマイナス60両だけど、
初期支出は初年度だけだから、
来年にはペイできて、再来年からは毎年60両のプラスだよ。
そこからは村全体の収入がずっと上がっていくよ。」
お父さんは丸い目で空をみた。
桜ちゃんは続けた。
「それどころか、失敗には絶対に原因があるから、
5人の成功例を元に、
村全体の成功確率は下がる可能性より上がる可能性の方が遥かに高いんじゃないの。」
お父さんは、
「まあでもうちも、この村もずっとこうやってきたんだから。」
といいながら缶ビール片手に野球中継を見始めてしまった。
桜ちゃんのお兄さん
桜ちゃんはこれらの話を全てお兄さんに話してみた。
お兄さんは以前から村のこの先の生活を心配していた。
お兄さんは興味深く聞いた上に、
溜息を吐きながらこう言った。
お父さんもこの村もいつもこうだ、
「俺はこうやってきた。
昔からこうやってきた。これが常識だ。
と、いつも言う。」
お兄さんは続けた。
「変化は物事を2極化させるきっかけなんだ、
変化を利用するか、変化に負けるか。」
「良いのか分からないのなら調べれば良いし、
払うお金がないなら払う方法を考えればいい。
時代が変わってるのに、
やってきたことを常識だからといつまでも言っててもね。」
「今はまだネットとかない時代だから、
調べるにはしばらくそこに行っちゃう方が早い、
お父さんに相談してみよう。」
大喧嘩
案の定、お父さんとお兄さんは大喧嘩になってしまった。
お父さんの言い分はこうだ、
「お前はこの家に生まれたんだからこの家の仕事を全うするのが筋だし常識だ、俺もこうやってきたし、おじいさんもこうやってきた!
お前が行ってしまったらお前が面倒を見ていた田んぼは誰が面倒見るんだ?
残されたものが大変になるじゃないか、
この恩知らず!」
結果的にはお兄さんは反対する村人達を振り切り、
遠くの村へ飛び出してしまい、
実質、村八分となってしまった。
村のみんながこう言った。
「あいつは変わりもんだ、常識がなってない、筋が通ってない、恩知らずだ、裏切者だ!」
10年後
もちろん、隣の村と、桜ちゃんの村では大きな経済格差が起きていた。
なんとか桜ちゃんの家でも毎月1両は貰えていたが、不思議と以前より貧乏になっていた。
町に出ても、物価が上がってしまっていて、
10年前に1両で買えたものが、2両でないと買えなくなってしまっていた。
要は、貰える金額は変わらないが、
世帯収入が半分になったと等しい状態になっていた。
村人は業を煮やして長老に駆け寄った。
「物価が倍になったのだから、それに合わせて我々の取り分を倍にしてくれと。」
長老の返答はこうだった。
「米の取れ高が倍になれば良いが、米の取れ高が倍にならないのに、
お前たちの取り分を倍にすることなんて無理だろう。」
20年後
隣の村との経済格差はより開くところまで開いていた。
そして更なる異変が起きた。
遠くの村の美味しい米に、
お殿様たちの需要が移ってしまい、
桜ちゃんの村のお米は、
以前の量の半分しか買ってもらえなくなってしまった。
長老は村人に言った。
「買ってもらえる米が半分になったんだ、お前らの取り分も半分だ、
これは仕方がない。」
村人の生活水準は20年前の1/4になってしまった。
災難は重なるもので、その年にとうとう害虫と天災が村を襲い、
米すらほぼ全滅してしまった。
情報では、
何でも、遠くの村の害虫と天災に強いというお米は影響を受けなかったらしい。
長老のギブアップ
長老はとうとうギブアップ、その時には裕福になっていた隣の村に、
長老の全ての田んぼを1200両で売却してしまった。
桜ちゃんの村人たちは、今度は長老からではなく、
隣の村の長老から田んぼを借りる形となった。
しかも条件がついている。
「畑も耕しなさい。
安心しなさい、
その代わり、今と同じ月額は保証する。」
村人にとっては20年前の生活水準の1/4になった上に、
仕事量は倍になってしまった。
でも、村が破綻してしまって生活できなくなることを逃れただけでも、
と、みな目の前の労働にしがみ付いた。
※桜ちゃんの村は経済成長最下位になった日本の姿。
不合理な「こうやってきた」「常識」「筋」を強要しないよう、
自分への戒めとして。
そして、
この物語には続きがある。
更なる売却劇と村の復活
その翌年、
子供に満足な食事も与えられず、
7・5・3を迎えられない子を亡くす親。
その悲しみに打ちひしがれながらも、
自身も栄養失調と過労で意識もうろうとする中、
もうこの生活はできない、
と疲れ果て、
限界がきた村人達は自害を考えるほど追い詰められる。
皆、口々に、
「なんでこうなってしまったんだ」
と嘆いた。
そんなある日、この村がさらに遠くの村に買われてしまうことになる。
なんでも12000両で買われるとのこと。
隣の村は、前年に1200両で買った村が10倍の12000両で売れたのだからウハウハだ。
ただ、その売却劇は、村人にとっては思ってもいない展開へ進む。
その遠くの村は、
美味しくて害虫や天災に強い新種の米や野菜の、
効率の良い合理的な生産技術を持っており、
さらには外国に輸出までしている。
労働努力にも敬意を示しつつ、「分散と集中」を機能させるイノベーション努力を誠心誠意惜しまない姿勢。
村人達はそれらの仕事の効率化によって労働量が圧倒的に減ったが、
生産高は高いため、月の取り分は4倍に。
その遠くの村の合言葉は
「ヴィジョナリーヴィレッジ」で、
村人自身の満足度を高め、永続的に存続し、繁栄することを掲げていた。
桜ちゃんの村人たちは泣いて喜んだ。
その遠くの村の代表とは、
21年前にこの村で、
村八分になった桜ちゃんのお兄さんだった。
村人達は21年前に裏切者と罵倒した桜ちゃんのお兄さんに、
泣きながら感謝したとさ。
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