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鼻血を出したい人生でした。

恥ずかしながら、生まれてこのかた、一度も鼻血を出したことがない。

体験したことがないものに、人は夢を見がちである。例に漏れず、個人的に鼻血にはちょっとした憧れがある。

憧れがあると、それなりに努力したりもするわけで、鼻を軽く殴ってみたり、壁にぶつけてみたり、痛々しく涙ぐましい行為に至ったことも一度や二度ではない。

しかし我が鼻は、あらゆる暴力に怯む様子を全く見せず、33年間平常運転を続けてきた。鼻水については、過去にさまざまなバリエーションの色を出してきたけれど、真紅の雫をたらすことは叶わない人生だったのである(2020年10月14日現在)。



鼻血が出るって、どういう感じなんだろうか。

(多分)生温かく、(おそらく)やや鉄の風味を感じさせるあの液体。適度な粘度を保ちながら、ゆっくりと体内から外へ出ていくのを、鼻血経験者の方々は「あー。出るわ。出る出る。」と自覚されていらっしゃるのでしょうか。その液体が人目に晒されるよりも前に……。

まさに神秘である。羨ましいことこの上ない。


鼻の粘膜が弱く、ボールをぶつけたり、強めに「チーン!」と鼻を噛むだけで、たら〜。そんな鼻血クイーンだった小学校の同級生ユウコちゃんに、鼻血を出すコツを聞いたことがある。彼女が言うには、「遺伝」とのことだった。

悲しいかな、鉄壁の鼻を持つ(かは知らんが鼻血みたことない)両親から生まれた私には、どうあがいても「鼻血出やすい族」にはなれないことが、齢10前後にして確定し、心から落胆したことを、今でもよく覚えている。


ところで、つい先日のこと。
遅れて出社してきたチームリーダーが、鼻血トラブルで病院に行っていたと分かったとき、私はにわかに興奮した。

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『昔からなんですが季節の変わり目に鼻血が結構出るんです、、、』


昔から…?

季節の変わり目に…?

結構?結構出ちゃうの…?



ゾク…♡


鼻血のプロいたーーー\(^o^)/




季節の移り変わりを感知して、鼻血というアウトプットで表現してくる御鼻の尊さよ……!!


彼はさぞかし辛く、大変な人生を歩んできたことだろう。お気に入りの服をダメにしたことがあるかもしれないし、思春期の頃などは同級生にネタにされたこともあったかもしれない。
けれど未経験の私からすれば、彼は神秘の体現者である。私同様、全鼻血未経験の羨望の的である。


私は心の中で、彼と彼の鼻が歩んだ人生に対し、深々とこうべをたれた。
チームとしてより一層彼(の鼻)と一緒に努力していきたい。しみじみとそう感じたのである。


あぁ、この清々しい気持ちは何なんだろう。
圧倒的プロが現れたことで、私の鼻血に対する小さな憧れはある意味昇華したのかもしれない。鼻血が出ようが出まいが、人生は愛おしい。ある種の欠落と羨望を抱えて生きていくより、私は私の人生を歩めばいいのである。

母よ、産んでくれてありがとう!



こうして私は、「鼻血を出したい人生」から、「鼻血未経験でも構わない、ただ欲を言えば一度は出してみたい人生」へと方向転換したことを、ここに報告いたします。

※プロいわく、青年期の季節の変わり目には軽くコップ1杯くらい出続けるらしく、それはさすがに病院案件だわ。お大事に……。



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