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「匂」

秋になって。あったかなお茶がいっそう美味しくなって。お互いのあれこれ夢中におしゃべりしていると。季節の深まりを感じる心と両手の中の熱いカップの相性は抜群なのに気づいたりする。もう少ししたら。散歩途中の知らないお家の窓からクリスマスツリーの灯りがこぼれていたりして。クリスチャンでなくても。気分はアーメンです。

何やらテーブル下の私の足元に遠慮がちにじゃれつく気配がしています。さっきまで一緒にお茶の席に座っていたサラサラ頭のおかっぱちゃん。何だろ床でコロコロしてます。こっそり覗いておどかしてやれ。

「ニャ、ニャー」。
そう来たか。ならば迷い猫を見つけて戸惑う叔母様役を無難にこなしたいところです。

「あら、こんなところに子猫がいるわよ」
母親の友人は母親役なのでそのままのはずが。なぜかお芝居ぽいのが可笑しかったりして。
「えっ、子猫ですか?本当に?」
「間違いないわよ。ニャーって鳴いてるもの」

私はしゃがみこんで子猫を胸に抱きしめた。その柔らかさにまさか本物の猫じゃないの。と思わず子猫の顔に顔を寄せてみた。「ニャー」。「どこから来たの?」「ニャニャ」「お名前は?」

そうか。これは小さなおかっぱちゃんなりのコミュニケーションなのか。子猫と見知らぬ叔母様という世界を作ってお互いを見せっこしようと誘っているのかもしれない。シッポを捜したり耳に触れたり。ちょとずつ見えない距離が近くなる。幼子の匂いが私をマーキングする。母子ってこうやって見えない感触を共有しているのかな。

昼間の疲れが子猫の瞼を重くしています。子猫はそろりそろりおかっぱちゃんの姿に戻らないとなりません。シンデレラだって真夜中の時計台の針が重なったら元の姿に戻りますから。違う世界に行ったら約束を守らないと戻れなくなるかもしれないから大変です。

採れたて山のイチジク

おとな2名子猫1名のお茶会の幕引きです。

見送ったふたりの後ろ姿にはどちらにもシッポはなく。間違いなくこちらの世界に無事に戻れたようです。私のからだのあちらこちらにはマーキングの残り香がうっすらと鼻先を行ったり来たりしています。

テーブルの下にも隣の部屋にも子猫らしき姿は見つからないけど。声に出して呼んでみたら「にゃっ」と聞こえてきそうな気配が部屋には残っていました。猫って魔を祓う生き物って西洋では言われているけれど。あの、シッポの無かった子猫。しっかり魔を祓ったかもしれないな。

戴いた手作りの野菜が丁寧に新聞紙で包まれています。白菜もネギもここまで育つのは大変なことだったろうな。今夜は今年初のお鍋にしよう。

日本を感じる紅葉

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