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夏の旅

また夜が更けてきました。いかがお過ごしでしょうか?

「ようこそ、火星へ」放送局スタジオの窓からは、海の水平線に、今年一番のイカ釣り漁船の灯りがずらっと並んでいるのが見えています。

今年も涼しくなりましたからね。カセイアオリイカを焼いて食べると、すごく美味しいってディレクターさんから情報を仕入れていますので、今度ぜひ食べてみたいと思います。火星独特の赤い保護色を身に着けた、まるでタコみたいな色をしているそうです。

早速、七輪と日本酒を準備しておかないといけませんね。

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ではでは、今週は過ぎゆく夏を偲んで、「夏の〇〇祭り」というお題を設けて、リスナーの皆さんのマイブームを募集しています。

では、本日のお手紙です。ペンネーム鴨川銀河、括弧女子高生さんからいただきました。丸っこい文字がすごく可愛くて読みやすいですね。最近流行っているんでしょうか?

「ハヅキさん、今晩は。夏といえば、私はだんぜん『旅行』です。『夏の旅祭り』。一人旅はまだ慣れないし怖いけれど、私を合わせて学校の5人の友達で話し合って、毎年誰かの実家に一週間泊めてもらう家族体験をしています。

「去年の夏は、隣のコロニーでライ麦農家を営んでいる友達の家にお世話になって、収穫のお手伝いをしてきました。二年前の夏に訪れたのは、火星の真裏のコロニーに暮らすお金持ちの家で、ただボーッとしていました。暇だと言っても、余暇を過ごすこともまた大切な経験でした。

「家族によって、過ごし方は大きく変わってきます。それがひとつの特色のある思い出に変わるので、とても有意義な体験でした。

「今年は高校最後の夏休み。訪れたのは、今住んでいる同じコロニー内の友達の家で、比較的近場でした。友達のお父さんが教師をしている実家です。最初、想像していたのは地球の書斎みたいな、本だらけの家でしたが、実際に行ってみると大部分が、がらんとしたホールでした。ホールに付随するように小ぢんまりした実家がくっ付いている感じです。夏休み中も近くの子どもたちがホールに集まっていました。

「そこで子どもたちは遊ぶのも勉強するのも自由で、私たちは子どもたちの困っている時だけ、声を掛けてあげるというお手伝いをしました。話を聴いてあげること、きっかけだけを伝えることが一番のポイントでした。

「困るということが、本人にとってどういう状況を指すのか、私たちは具体的に考えたこともなかったので、最初から戸惑ってばかりいました。実は、その戸惑いこそが「困っているという状況」だったわけですけどね。蛇が自分の尻尾を飲み込んだ瞬間で、それに気づかされた時はあまりの呆気なさにみんな笑いがこみ上げていました。

「泊りの最後の夜、星を観察しようという企画が子どもたちで立てられていました。たくさんの近所の子どもたちが集まって、どの星座を観察するか、どの星雲を見つけるとか、そんな話声で前日からとても賑やかでした。でも、当日は急に雲が広がり出して、もう星どころではなくなってしまいました。

「せっかく楽しみにしていたのに、みんな残念だろうなと落ち込んで心配していると、子どもたちが私たちに話しかけてくるのです。「どうしたの?何か心配事でもあるの?」と。それは迷子に話しかけるような調子でした。

「私たちが語り掛けてきた行動パターンを、子どもたちはただ繰り返していたのです。そのことに気づいたとき、ああ、世界ってこうして回っているんだなと実感しました。

「星は逃げないよ、いつだってそこに輝いているんだ、今日は僕たちと都合が合わなかっただけなんだ、と誇らしげに語る子どもたちの姿が、今でも忘れられません」とお手紙をいただきました。鴨川銀河さん、ありがとうございます。

こうした体験に触れあう機会を、自分たちで作っていくなんてこと、今どきなかなか、誰もしたがりませんよね。面倒だし、不慣れだし、お金かかるし、宿題だってしなきゃいけない。

一人だと上手くいかないことだって出てくるでしょう。でも、その点を友人たちでカバーし合うことで補填して、できるだけ損失を防ぎながら、新しい環境に飛び込んでいく。チームで成長し合うって、まるで自分自身の投資みたいなもんじゃないかなと、感じることもありますね。

これからもいろんな形で旅を続けてみてください。

それでは鴨川銀河、括弧女子高生さんからのリクエストです。ポルカドットスティングレイで「おとしまえ」。

#眠れない夜に


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