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Let It Happen

メールいただきました。いつもありがとうございます。

ペンネーム希望、子猫のミュー太郎さん。

こんばんは、いつも仕事しながら楽しく聞いています。

火星に移住して15年、そろそろ仕事を引退して次の世代に引き継ぐことを考えているこの頃です。仕事は活版印刷。デジタルでは出せなかった、行間をものともしない、自由な印刷が売りの職人をしています。

このあいだ、跡取り息子がこんなことを言うのです。「旅に行きたいなあ」なんてね。そういえば息子と旅行に出掛けたことなんて、これまで一度もありませんでした。

火星に来て以来、毎日、印刷のことばかり。家族のことは全部後回しだったことに気づいて、愕然としてしまいました。

これはいけない。

そういえば、妻に逃げられた原因もこのことでした。

つくづく思い直して、臨時休業をとって、初めて息子と釣り旅行に行ってきました。もちろん泊まりで二泊三日、何もかも忘れてのんびりしてきました。

マス釣りが火星でできること自体初めて知ったのですが、息子は友人からコツをいろいろ聞いて知っていたようです。息子にポイントを教えられながらという体験は、ある意味象徴的なイベントだったと思います。

夜は友人から借りたテントで久しぶりに語り合いました。なんだ、彼も同じ自分じゃないかと、意外な気づきを得ることもできました。

息子ももう18歳。仕事も少しづつ回せるようになっています。アート的な観点から活字に興味を持っているようです。釣りと同じように、逆に教えられながら活版印刷を営んでいく日も、そう遠くなさそうです。それでは、またお手紙します。

子猫のミュー太郎さん、ありがとうございます。お写真も楽しそうでいいですね。写っているのはニジマスでしょうか?とても色鮮やかですね。夕ご飯も美味しそう。

天気が穏やかな季節に間に合って何よりです。

というのも、ここサンドラ地方では、今晩から初雪が降り始めています。積雪予報では今夜、平野部で20センチ、丘陵地で50センチとなっています。車を運転の方はくれぐれもスピード控えめで、安全運転でお願いします。

スタジオの窓からもしんしんと降るぼた雪が見えています。遠くの夜の灯りは、雪のために見えなくなっています。外は寒そうですね。

実は、私も一昨日から昨日にかけて、バイクでキャンプに行って来たんですよ。川沿いにオープンしたばかりの、見晴らしのいいキャンプ場です。

どうしてキャンプに出掛けたかというと、昔の漫画で『ゆるキャン△』というのをスタッフに勧められてですね、引き込まれちゃったんですよ。若い女の子たちがそれぞれの想いを抱えつつ、キャンプという目的に情熱を燃やすという、なぜかノスタルジックな気持ちにさせられる内容でした。

それと絲山秋子さんの『絲的サバイバル 』を読んだこともきっかけです。最近、火星の本屋さんで売り切れ続出というので、その怪しい表紙の本を買ってみたんです。『ゆるキャン△』の女の子たちとは対照的で、たった一人で孤独に各地をキャンプしてまわるエッセイでした。私たちが火星で生活していると、なかなか誰かと予定を合わすことが難しくって、つい出不精になってしまいますよね。それってすごく勿体ない。誰にも構うことなく、気が向いたらただ気儘に荷物をまとめて旅に出ればいいんだ、と絲山さんの体験談を読んでいると居ても立ってもいられなくなったんです。

地球では絶版なのに火星ではベストセラーっていう現象も、火星ならではのことなんでしょうか?

私が行ってきた晩は、まだ雪は降っていませんでした。でも、夜はまさに底冷え状態。あまりに寒すぎて寝付けなかくて、夜中にごそごそ起き出すと、震える手でお湯を沸かして、熱々のコーヒーを淹れて温まる始末でした。

必死に苦労して淹れるコーヒーの、そのありがたいこと、ありがたいこと。

こういう経験って、スクラップ記事みたいに忘れられないものですね。

びっくりしたのは、見上げると星だらけだったこと。地球にいた時は信じられなかったような、まさに宇宙が広がっていて、「ああ、寒くて辛かったけれど、シュラフから抜け出して良かったなあ」とコーヒーのことも忘れていました。宇宙船でだってこれほどの体験は出来ないですよ。星に包まれて、いい感じでした。

旅ってほんとうにいいですよね。

何かに夢中になっていると、すっかり移動をサボってしまいがちになるのですが、生活から外れた目的に向かっていくことって、とても大切なことだなあって思いました。

子猫のミュー太郎さん、いっしょに頑張っていきましょう。

それでは、子猫のミュー太郎さんからのリクエストです。今年御年90歳を迎えたTame Impalaは、火星でのライブツアー真っ最中。曲は10年代の"Let It Happen"。どうぞ。

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