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【詩】幻影にむせぶ者たちの歌

どうしても溶け切らないものが、この世の中にあったとしても、それでいいとわたしは思っている。分かりあえないからといって、その誰かを部屋から追い出しても、結局、根本的になにも変わらない。

いくつもの季節があるように、わたしたちはいくつもの試練を耐えていく。いくつもの涙はいくつもの笑いといくつもの忘却に支えられて、次の魂も次の肉体も生き続けていく。あなたたちもわたしたちも、根本的には変わらない。

見よ、たくさんの人が火星を終の棲家に選んで飛んでくる。たくさんの希望を、たくさんの試みを、わたしたちはこれまで望遠鏡で見てきた。そしてたくさんの失望を、たくさんの挫折を、いやという程これからのわたしたちは見ることになる。終の棲家に海はまだなく、砂だけがあなたたちを待っているのだけれど。

そうだ、あなたたちにも木の実の伝説があるように、わたしたちは木の実を知っている。その実が教えた「望み」のために、あなたたちもわたしたちも苦しんで、そのたび強い光を探してきた。そう、あなたたちは長いあいだよく耐えてきた。信じがたい忍耐をあなたたちは持っている。わたしたちはずっとそっと遠くから見ていた。

だからどうか、意に沿わないものを憎まないで。どうか、目を背けることを正義だと思わないで。そして、どうか明日までも憎まないで。あなたが憎む者があなたを支えていたことを疑わないで。やがて、新しい海が砂を沈める時、今さらのように悔いることのないように。

ひとつひとつの機影を、わたしたちは遠くからひとつひとつ数えてゆく。未来の幻影がひとつひとつ重なって、わたしたちはうっとりしている。砂粒より小さかったあなたたちが、とてもまぶしい。

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