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少しだけ火星が揺れた【詩】

少しだけ火星が揺れた。ゆらゆらと、チョウチンアンコウの夢。

とろけたソフトクリームを、食い入るように見つめる子どもたち。

けんけんぱ遊びの円が、真っ赤に染まったので、もう帰らなきゃ。

だって、どこまで辿っても火星が続く。けんけんぱ。


少しだけ火星が拗ねた。何食わぬ素振りのジャイアントパンダ。

使い古したノートブックが、消えてしまった。いつの間に?

あれは思いつくままの私だったのに。しまったな。

文字から木が生えるといいのにな。花も咲くといいのにな。


重ねた火星の数々を、数えて齧る柿ひとつ。風向きが北向きに変わった。

その風は長雨が近い兆候だ。だから、雨水を溜める甕を掘り出していく。

近隣の家という家が、足の踏み場もないくらい、もう準備万端だ。

さあ来い。甕から水が溢れ出しても、一滴だって無駄にはしない。


少しだけ火星が揺れた。びゅうと風が過ぎて、風前のチンアナゴの夢。

腕時計はすっかり夜で、星一つないどんよりした静けさに包まれている。

きっと隠れている。あらゆるものが潜んでいる。だから、気をつけて。

この星はどんなに用心しても、し足りないくらい、危うくて脆いんだ。


両手でバランスをとるんだよ。身を支えるものは何もないから。

目を閉じれば、僕はジャイロスコープにだってなれる。

両足で橋を渡ろうとするんじゃないよ。揺れると縄はしなうから。

目を閉じれば、足元に火星が揺れている。

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