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清い悪魔-2022/7/27
熟れて熟れて、甘くほどけて腐った黄色い果実。
それを口に運んだ状態で彼は死んでいた。
齧りかけの口元から、唾液と果汁が混ざり合って濁った液体が流れている。
ああ、まただ。
彼も騙されたのだろう。
金も権力も全てを手に入れて、その先を求めて、求めた結果がこの間抜けな男だ。
死を媒介する生き物がいる。
街を荒らす嫌われ者を、欲に溺れた権力者を、狂った王様を、
そんな人々に向かって、奴らはこの果実を差し出すのだ。
一口食べれば永遠の命が、世界を手にするほどの金が、愛する人の声が、
そう言って笑って。
果実を渡された者はそれを貪り、そしてこの男のように死んでしまう。
奴らは扉の裏側に。
奴らは影の繋がる所に。
奴らは本の最後のページに。
周囲にはむせ返るような甘い匂いが漂う。
その最期の口元は、何故だか笑っているように見えるのだ。