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エズラ・ボーゲル先生を追悼する

朝日新聞によれば、鄧小平伝などの緻密で深い中国研究で知られ、著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が大ベストセラーとなったエズラ・ボーゲル・ハーバード大名誉教授が12月20日、マサチューセッツ州ケンブリッジの病院で死去されたとのことです。90歳でした。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

実は、昨年の12月3日にケンブリッジのご自宅でインタビューをさせていただき、非常に興味深く面白いお話を聞かせていただいたことがあります。上の写真は、その時のものです。歩き方などには年齢を感じるものの、とてもお元気で、「先生はあと5年はピンピンしておられるだろう」と思っていたので、まだ信じられません。

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(インタビューの前日は大雪でしたが、何とかボストンにたどり着きました。写真は、ボーゲル先生の近所の道路の様子。)

朝日の誤報だろうと思いたいですが、手術を受け、予後が思わしくなく、急逝されたとのこと。ハーバード大学のクリスティーナ・デイビス日米関係プログラム所長がソースなので、残念ながら真実でしょう。

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200107/se1/00m/020/062000c

ボーゲル先生は高齢にもかかわらず、お茶菓子を自らふるまってくださり、恐縮したことを覚えています。

今年の大統領選については、次のようにおっしゃっていました。

■私個人はトランプ氏が再選される可能性は非常に低いと考えている。実は、(米国と中国が「トゥキディデスの罠」にはまることを警告した『米中戦争前夜』の著者である)ハーバード大学ケネディスクールのグレアム・アリソン教授たちと協力して、(米大統領選挙直前の)20年10月を目途に報告書を発表する予定だ。
新大統領が誕生した場合、あるいはトランプ政権が継続した場合の両方のシナリオで、どのような対中政策を採用すべきか提言を行う。
私は、アリソン教授が報告書でも提唱する予定の、「米大リーグにおけるボストン・レッドソックス球団とニューヨーク・ヤンキース球団のライバル関係のような、宿敵だが同じリーグ内で協力し合う米中の競争関係の管理」という枠組みが優れていると思う。
われわれは地元のレッドソックスに勝ってほしいが、乱暴な争いではなく、互いがルールを順守する枠組み内で競争する、ということだ。競争するのは互いに切磋琢磨されるので、よいことだ。
その上で、トランプ大統領が無視してきた国際的組織の立て直しを行う。われわれは、それらの機関が守られるべきだと考えている。そうした組織の枠組みの中で、中国とより協力すべきだ。両国は意見の相違はきちんと主張すべきだが、なんでも悪口にするのはやめましょう、と。
ただし、国防や知的財産権の問題に関しては、われわれの立場は米政府とあまり変わらず、厳しい。その上で、環境問題や新技術開発、医療制度など協力すべき分野が多く存在する。

―― 報告書の提言を実行する候補は誰になるか。
■まだわからないし、特定の候補を支持することもない。ただ、民主党候補たちは予選や本選では勝ち抜くために中国を叩くだろう。しかし、一度大統領に選出されれば責任が重いため、より現実的かつ合理的な政策を採る可能性がある。

―― 大変楽しみな報告書になりそうだ。
■あなたは楽しみかもしれないが、私は責任重大なので負担を感じている(笑い)。どのように書くべきか、どのように影響を及ぼすべきか、悩んでいる。

この報告書が出なかったのは、何か事情があったのでしょうか。先生はもうご病気であったのかも知れません。

ともかく読んでいただければわかるように、大変ユーモアのある方で、楽しんで笑いながら取材の仕事ができました。あらゆる文献を読み込み、東アジアの現地で取材研究もされた結果としての学識の深さと分析力には、ただただ感服するばかりでした。

中国に関する先生の見解と自分の意見は相違点がありましたが、立場の違いを忘れさせるほど博識なので、心から尊敬申し上げておりました。まだまだ元気で若い人たちに教えていただきたかったです。

若い人と言えば、私とのインタビューの直後にハーバードやMITの日本人学生や、若い駐在員をすしパーティーに招いて、いっぱい話をするんだと、楽しそうにしておられました。常に次世代のことを気にかけ、「日本人は昔のようにハングリー精神を持ってほしい」と繰り返しておられたのが印象的でした。そのお気持ちを、しっかり心に留めたいと思います。

「知の巨人」という言葉があります。私は、あまり安易に使いたくないのですが、ボーゲル先生には、本当に相応しいと感じます。まだまだ生きて語っていただきたかったです。先生の死を悼み、この一文を捧げます。

岩田太郎

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