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小説家・石田衣良が徹底解答! 『書くこと』についてのヒントが詰まったQ&A集



小説家 石田衣良が、若い仲間たちと大人の放課後をテーマにお届けする、自由気ままな番組『大人の放課後ラジオ』、通称オトラジ。毎回映画・マンガ・本、音楽など最新カルチャーから、恋愛&人生相談、ほんのり下ネタまで、日常のひとときをまったりにぎやかにするエイジレスでジェンダーフリーなプログラムをお届けしています。

 そんなオトラジで2021年 1月28日に放送された『大人の放課後ラジオ#56 小説家スペシャル第4弾「書くこと特集」〜書くことに興味がある人へ〜』

リスナーの皆さんからの「書くことについて」の質問に答えていくという大好評企画、第4弾。書くことに挑戦したい方からすでに書いている方まで、たくさんの質問をいただきました。

オトラジメンバーの石田衣良早川洋平武井ひろなも大盛り上がりだった収録をテキストでお届けしていきます!

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【質問】
頭の中では「このことについて書こう」と思っていても、いざ書こうとすると上手く文章としてまとまりません。良い方法はありますか?

石田 最初から「完璧に書かなきゃいけない」と思っていない?
思い浮かんだアイデアやストーリーの一番書きやすいところから書いてみるか、最初は下書きのつもりで書いてみて
その方がスッと書き出せるし、プレッシャーやストレスがなくていいよ。

早川 書くことに限らず、いかに「スッと入るか」、つまり自然体で取り組めるかって、キモなんでしょうね。

石田 そうそう。歌手も一番大事なのは歌い出しの最初の一声っていうよね。最初がピタッとハマればあとは自然に進んでいく。ただ、それができるようにするのってすごく難しいので、書きやすいところから書くといいんじゃないかな。

ひろな でも、文章の書き出しってすごく重要だから「いいことを書こう」と思っちゃいません?

石田 書き出しにせよ決めゼリフにせよ「いいこと書こう」と気負っても、良い文章にはならないよ〜。「モテよう!」と思ってもモテないのと一緒(笑)。
だから僕も、今年から向上心を捨てようと思って。

ひろな 捨てちゃうんですか!?

石田 向上心って、結局功名心のことじゃない。欲を出してもうまくいかないものだし、捨てようと思う。

早川 これまで、衣良さんのなかで功名心は強かったんですか?

石田 あるある!

ひろな え〜! 自然体なイメージが強いから、なんだか意外(笑)!

石田 ぼくは今ジャケットに赤いセーターを着ているけれど、カッコよく思われたくなかったらこんな格好しないよ(笑)。

【質問】
衣良さんが1冊の小説を書くプロセスを細かく教えてください

石田 まず最初は、こんな流れです。

出版社から依頼がくる

出版社のカラーや依頼内容と照らし合わせて、自分の中にある題材のストックから数点をピックアップする

編集者に提案、打ち合わせ

この打ち合わせで、今の時代の流れに合うものは何かを決める。そこから、題材に細かく肉付けをしていく形です。
そこからはひたすら、締切に向かって走るだけ。まるで、落ちたら死ぬ走り高跳びの世界です。クリアできたらいいけれど、足元では火が燃えているからバーに当たったら終わり。

早川 四半世紀もの間小説を書かれている衣良さんでも、プレッシャーがあるのですね。

石田 あるよー。いまだに締切は辛いものだしさー。

ひろな この流れの中の、アイディアに肉付けをしていく部分って、どんなふうに書き始めるんですか?

石田 書き始める前にざっとしたストーリーの流れやキャラクターは出来上がっている状態にしておいて、あとはとりあえず書いてみる。
キャラクターの追加設定が思い浮かぶこともあるから、そういう場合は途中から付け加えてたり微調整していく感じかな。

ひろな よく漫画家の話にある「キャラが勝手に動く」みたいなこともあるんですか?

石田 もちろんあるよ。「こっちの方に動かそうと思っていたのに、うまく動いてくれなかった」みたいな。

早川 とはいえ、話のキーとなる部分は決め込んでおくような形ですか?

石田 そうだね。でも、あえて細かく決め過ぎないようにしているよ。長編でも、A4用紙1枚で収まる程度にぼんやりとまとめておくくらい。その上で、書いたあとできるだけ忘れるようにして、書きながらイメージを研いでいく感じ。

早川 作家の数だけ、書き方があるんですか?

石田 そうだね。たとえば、ジェフリー・ディーヴァーというアメリカのミステリー作家の書き方は、僕と全然違う。長編1本に1年かけるとしたら、最初の7ヶ月から8ヶ月は、ストーリー展開を何回も何回も組み直す。プロット優先主義なんだ。そして、残りの期間で執筆する。書くときには、細かく練ったプロットは一切動かさないんだって。ディーヴァーはどんでん返しが売りだからね。

早川 村上春樹さんは「最初の1行だけ書いたら、あとは勝手に動き出す」と何かの本で書いていたような……色々なタイプがあるのですね。

石田 春樹さんは、謎めいたストーリーの中に自分の内面が反映された小説を書いている。そういう小説は、自分の奥から何かを引きずり出していく書き方になるから、細かなプロットを立てることはできないよね。

ひろな 書いている本人でも結末が分からない、ということもありますか?

石田 基本的に分からないと思うよ。自意識を引き出すことに注力しているから、ストーリーをを完璧にコントロールして書いているわけではない。それでも、その書き手だからこそ表現できる難解な自意識がおもしろくて、小説として成り立っているから素敵だよね。

【質問】
大学時代から書くことが好きになり、WEBライターの仕事を経験しましたが、やはり自分の小説が書きたいという思いから商業的なライター活動は辞めて、それからは20年ほど、派遣社員をしながら小説を書いています。
執筆に熱中している時、現実の自分と主人公の境目が分からなくなり、書くことが楽しい一方、仕事や子育てなどの日常生活が苦しくなってしまいます。
執筆を反対されたのが原因で、旦那とは離婚。今は石田さんの動画を見て、とりあえずこの先3年間は新人賞に応募してみようと思い始めたところです。何度も書くのを諦めようと思いましたが、本音をいえば諦めたくはありません。何かアドバイスをいただきたいです。

石田 書くことが本当に楽しくてやめられないんだよね。大事な趣味であり自己表現なんだから、無理してやめることはないと思う。
ただ、それだけだと生活の心配もあるだろうから、


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