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わなにかさま(三)

「いいか」
布団の上に座ったおじいちゃんは、「あの棒」を両手で持ちながら言った。
「こう」
右の手のひらで「あの棒」の丸みのある方を抑えて、左手は棒の真ん中あたりを握っている。
「こうと押すだぁ、こえで」
槍みたいにぼくの横に突き出した。
「こえでこうと」
おじいちゃんは、今度は棒のヘラをぼくのわき腹につけて押した。
「こえで。こえでこうと。いいか。こうと」
わなにか様をこう押せということなんだろうか、突くというよりヘラで押さえつけるような微妙な力かげん。何度も何度もぼくの脇腹を押す。
「きれいに」わなにか様にお帰りいただくためにはこの力かげんが大切なのかもしれない。「こえでこう」を体で覚えなきゃ。
「こえで。なぁ。こえでこうと押すだぁ、こうとなぁ。こえでこうと、ふっふふふ」
なぜ笑った。

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