3月30日、音楽史に置かれた呪物、『音楽の捧げもの』、今、その呪いを解き、祝福する...
バロック・ヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ、ヨハネス・プラムゾーラー率いる、パリを拠点とするピリオド・アンサンブル、アンサンブル・ディドロの演奏で、バッハ、晩年の傑作、『音楽の捧げもの』。
Audax RECORDS/ADX13781
1747年、次男、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714-88)が仕えていたプロイセン王、フリードリヒ大王(在位 : 1740-86)の"ギャラント"な宮廷を訪れる"対位法"の大家、大バッハ(1685-1750)が、当代切っての音楽通君主、大王からテーマを頂戴し、そのテーマに基づき、フーガ、カノン、トリオ・ソナタ、全16曲を作曲、それをまとめ、献呈したのが、『音楽の捧げもの』。音楽史に燦然と輝く傑作なのだけれど、その背景には、"ギャラント"vs"対位法"という、新旧音楽思潮対決の構図がある。
いや、対決なんて上品なものではなく、悪意(変奏に向かない?晦渋なテーマ!)に悪意(ギャラントとは真逆の対位法がとぐろを巻く!)で応えるようなところがあって... バッハが誇るオールド・ファッションへの宮廷の嘲笑と、"ギャラント"なんていうチャラい宮廷の薄っぺらさをあざ笑う大家の嫌味が陰湿にやり合って生み出された"捧げもの"。となると、これは、音楽史に置かれた、ある種、呪物と言えるのかもしれない...
そんな『音楽の捧げもの』を、プリムゾーラー+アンサンブル・ディドロで聴くのだけれど、彼らの演奏、思いの外、軽やか!"ギャラント"な宮廷にて朗らかに繰り出される"対位法"とでも言おうか... 時代を経て、やり合いは解消、ひとつに結ばれての芳しいサウンドが放たれる。そう、呪いは解けた!真新しい祝福がそこに!
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