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9月10日、もうひとりのジョスカン、スペイン領ネーデルラント、故郷に留まっての音楽の魅力...

2017年に創設された新たな古楽アンサンブル、ラタス・デル・ビエホ・ムンドの歌と演奏で、16世紀、ルネサンス後半、スペイン領ネーデルラントで活動していただろう作曲家、ジョスカン・バストンのフランス語とフラマン語によるシャンソン集。

ジョスカン・バストン(fl.1542–63)。
わかっていることはあまりないのだけれど、現在のベルギー北部、フランドルを含むフラマン語圏の出身で、フランドルのすぐ南、カンブレー司教領で活躍したフランドル楽派、ヨハネス・ルピ(ca.1506-39)に師事しただろうと考えられており、またその作品は、フラマン語圏の東部の中心都市、アントウェルペンで出版されている。つまり、バストンが活動したのは、フラマン語圏を抱えるネーデルラント... フランドル楽派の作曲家たちが、積極的にヨーロッパ各地へと活躍の場を求めて行った一方、故郷に留まったバストン... 留まったことが、バストンの音楽を特徴付けたか...

中世以来の経済先進地域で、15世紀、ブルゴーニュ公国の伸長によりさらなる発展を遂げたネーデルラント(現在のオランダとベルギー... )。この地で育まれた多声音楽は、ブルゴーニュ楽派からフランドル楽派へとリレーされ、ルネサンス・ポリフォニーを牽引、ヨーロッパを席巻!が、16世紀、ネーデルラントはスペイン領に... その抑圧的な支配の下、かつての自由闊達な空気は失われ(何となく、現在の香港のイメージと重なるか... )、作曲家たちは、ますますヨーロッパ各地へと散らばっていった。

という背景から見つめる、留まったバストンの音楽... ヨーロッパを渡り歩き、洗練されていったフランドル楽派のインターナショナル・スタイルに対し、バストンの音楽は、周縁化してしまったネーデルラントにおける、現地化されたフラマンの音楽と言えるのかもしれない... 素朴で、よりシンプルに編まれ、時にフォークロワを思わせ、野卑ですらある... が、それこそがバストンの魅力!フランドル楽派のインターナショナル・スタイルでは得られないバストンのキャッチーさが、聴く者の耳をひょいと捉えれば、ここにもうひとつのルネサンスがあったかと感慨を覚える。

そんな、知られざるバストンを紹介してくれたラタス・デル・ビエホ・ムンド!美しくも、人間味溢れる歌声、印象的で、そこから味のあるアンサンブルを綾なし、惹き込まれる... 何だろう?16世紀、周縁化してしまったネーデルラントに残った、実直さみたいなもの、じわーっと広がって、ぽっと温かな心地にさせてくれる。

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