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11月14日、遠い北欧の宮廷を彩った国際性... ペーザスンの多彩な教会音楽集、『魂の牧場』。

マンフレッド・コルデス率いる、ドイツの古楽アンサンブル、ブレーメン・ヴェーザー・ルネサンスの歌と演奏で、ルネサンス末から初期バロックに掛けてデンマークで活躍したペーザスンのモテットと賛美歌集『魂の牧場』。

モウンス・ペーザスン(ca.1583-ca.1623)。
デンマーク、黄金期の国王、クリスチャン4世(在位 : 1588-1648)が親政を開始(1696)し、宮廷音楽の拡充に乗り出した頃、コペンハーゲンの宮廷礼拝堂の聖歌隊に加わった10代半ばのペーザスン... オランダからやって来たお雇い外国人、メルヒオール・ボルヒグレヴィンク(ca.1570-1632)から器楽も学び、音楽の道を歩み始める。そして、宮廷音楽の充実を図るため若い音楽家の育成が急務となると、ヴェネツィアで学ぶ機会を与えられ、ヴェネツィア楽派の巨匠、ジョヴァンニ・ガブリエリ(ca.1554/1557-1612)に師事(1603, 1605-09)。さらに、英国ルネサンス、爛熟期を迎えていたロンドンの宮廷(英王妃がクリスチャン4世の妹... )にも派遣(1611-14)され、マドリガルなどを学ぶ。その後、コペンハーゲンに戻ると、1618年、宮廷副楽長に就任(楽長は、師、メルヒオール・ボルヒグレヴィンク... )し、活躍。

そして、1620年、ここで聴く『魂の牧場』を出版... ミサ、モテットといった旧来の典礼音楽も含め、賛美歌やレスポソリウムなど、ルター派のための教会音楽を数多く収録した曲集で、その中から16曲を歌う、コルデス+ブレーメン・ヴェーザー・ルネサンス。ラテン語のミサを軸に、デンマーク語の賛美歌、レスポンソリウムを並べ、当時の礼拝を再現する?

で、ミサには、ジョヴァンニ・ガブリエリからの影響がしっかりと感じられ... ヴェネツィア楽派ならではの分割合唱による整理されたポリフォニーで織り成され、厳かな器楽の演奏が伴い、ヴェネツィアを思わせる典雅さ、広がる。一方、賛美歌には、ルター派のコラールに通じる素朴な表情が耳を捉え... レスポンソリウムのやさしいメロディーによる穏やかな展開は、ペーザスンと同時代を生きたドイツの巨匠、プレトリウス(1571-1621)を思い起こす味わい深さが... 教会の厳粛さに包まれながらも、温か...

そんな、ペーザスンを聴かせてくれた、コルデス+ブレーメン・ヴェーザー・ルネサンス!味わい深い金管、伸びやかにしてやさしい歌声、いつもながらの手堅いパフォーマンスが、ペーザスンの音楽の幅を丁寧に引き出し、また、巧みにまとめ、デンマークの文化に底流する仄暗さもそこはかとなしに響かせて、魅了される!いや、普段、ほとんど顧みられることのないペーザスンが、こうも魅力的に響き出すとは!さすがです。

しかし、興味深いです、『魂の牧場』。屈託無くヴェネツィアとルター派諸国のスタイルを総合し、ひとつに織り成して生まれる多彩さ!音楽史の周縁に在ったデンマークだからこその多彩さかなと... また、各地で学んだペーザスンの国際性も効いていて... この国際性こそ、コペンハーゲンの宮廷音楽のカラーだったか?遠い北欧の宮廷が、俄然、魅力的なものに感じられ... もっと聴いてみたくなる。

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