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11月25日、爛熟のルネサンス、マニエリスムを生きた、ジャケス・デ・ヴェルトの、酸いも甘いも知った音楽の深みに聴き入る。

スイス、バーゼルを拠点とする古楽ヴォーカル・アンサンブル、ヴォーチェス・スアーヴェが歌う、北イタリアで活躍したフランドル楽派、ジャケス・デ・ヴェルトのマドリガーレとカンツォネッタ... "Versi d'Amore"。

ジャケス・デ・ヴェルト(1535-96)。
フランドル東部の小さな町、ヴェールトで生れ、その歌声を買われ、幼くしてイタリアに渡ると、縁あって、イタリアの名門、マントヴァ公、ゴンツァーガ家の分家、ノヴェッラーラ伯爵家に迎え入れられ(1557年にはゴンツァーガ家の一族の女性と結婚... )、ローマ、ノヴェッラーラ(マントヴァの南、40Kmにある小さな街... )で音楽を学び、やがて、フェッラーラ公の宮廷楽長、チプリアーノ・デ・ローレ(1515or16-1565)の下で研鑽を積み、ノヴェッラーラ伯の宮廷で活動。その後、1563年にミラノ総督の宮廷礼拝堂の楽長となり、1565年には、ゴンツァーガ本家、マントヴァ公の宮廷礼拝堂、サンタ・バルバラ聖堂の楽長となり、音楽都市、マントヴァのベースを作る。が、晩年は、自身の体調不良に、ライヴァルから執拗な攻撃、妻のスキャンダル(不倫で駆け落ちし遺産目当てで殺人未遂の末、獄死!)、思いを寄せた女性(フェッラーラ公の宮廷に仕える歌手にして作曲家、タルクィニーア・モルツァ... )との関係を壊されたりと不運が続いた。

というヴェルトのマドリガーレとカンツォネッタ... カンツォネッタとヴィラネッラ集、第1巻(1589)から6曲と、マドリガーレ集、第9巻(1588)から3曲、マドリガーレ集、第10巻(1591)から5曲、マドリガーレ集、第11巻(1595)から1曲に、間奏曲的な位置付けで、ヴィンチェンツォ・ガリレイ(ca.1520-91)のリュートによるリチェルカーレも奏でられ、全部で16曲... で、ヴェルトの作品は、全て、不運の晩年に書かれたものという...

いや、思いの外、多彩です!で、まず耳を捉えるのは、カンツォネッタ... 器楽の伴奏を伴い、メロディーで聴かせるその音楽、次なる時代がすでに準備されている!というより、もはや初期バロック... 対してマドリガーレは、ルネサンスらしく古雅... とはいえ、織り成される声部それぞれが表情に富み、じわっとエモいのが印象的... かのジェズアルドにも大きな影響を与えたフェッラーラ公の宮廷の挑戦的な音楽にヴェルトも刺激を受けていたこと、意識させられる響き... いや、それだけでなく、酸いも甘いも知った作曲家だからこその、様々な感情を含んだ深み、魅了される。

そんな、ヴェルトを、真摯に歌い上げるヴォーチェス・スアーヴェ... 洗練されたアンサンブルを織り成しながら、体温を感じさせる歌声が印象的で... 音楽に籠められた様々な感情のうつろいを、下手に芝居掛かることなく、瑞々しく綴ってゆく。そうして引き立つ、爛熟のルネサンス、マニエリスムへ至っての麗しい悶え... 美しい歌声に、じわっと揺さぶられる感覚が何とも言えない。で、何か、作曲家を癒すようなやさしさも感じられ、それがまた近代のマニエリスムの中をもがく現代人をも癒すようで... 癒されて共感を覚えるヴェルト、聴き入る。

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