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7月19日、ソヴィエトを生き抜いたヴァインベルク... その音楽人生をチェロから見つめる。

オランダのヴィルトゥオーゾ、ピーター・ウィスペルウェイのチェロ、ラファエル・ファイユ率いる、ベルギーの新たなモダン+ピリオド、ハイブリットなオーケストラ、レ・メタモルフォーゼスの演奏で、ヴァインベルクのチェロとオーケストラのための作品...

ユダヤ系、ポーランド人で、ソヴィエトを生き抜いた、ヴァインベルク(1919-96)。それを象徴するような3作品で構成されるこのアルバム... 元来、ナチス・ドイツから逃れて来たソヴィエトのはずが、そこでも危機に陥るヴァインベルク。その危機の中、書かれた、2作品... 1948年、ジダーノフ批判(体制による表現統制... )の対象となった年に書かれた、チェロ・コンチェルティーノ... 1953年、医師団陰謀事件(ユダヤ系憎悪を背景とした冤罪事件... )に巻き込まれ、逮捕されてしまった年に書かれた、チェロとオーケストラのための幻想曲... そして、ソヴィエト崩壊(1991)から間もない、最晩年にあたる1992年に書かれた、4番の室内交響曲(1992)。

まずは、チェロ・コンチェルティーノ!チェロ協奏曲の元になった作品で、最近、発見されたとのこと... となると、準備段階の作品?いやいやいや、堂々たるチェロ協奏曲とは違う、コンチェルティーノ、室内楽を思わせる密なサウンドが、かえってソロを引き立て、瑞々しく、また違う魅力を放つ!一方、チェロとオーケストラのための幻想曲は、どこか厭世的で、それがまた幻想性を引き立て、聴き手を魅了してくる。

で、両作品の大いなる魅力は、チェロという楽器の味わい深さが、ヴァインベルクのユダヤならではのトーンを際立たせるところ!クレズマーを思わせるメローなあたり、キャッチーなあたり、凄くナチュラルに響いて、その人懐っこさが、ツボ... 普段、少し冷たくも感じるヴァインベルクの音楽が、この2作品では、何か素直な感情を見出せる?

という、ソヴィエトに苦しめられた時代の作品の後で、ソヴィエト崩壊(1991)の翌年、1992年に書かれた4番の室内交響曲を聴くのだけれど... クレズマーを思わせるクラリネットが活躍し魅了する一方で、虚無感も半端無い... 歓迎すべき自由な創作を圧迫し続けた体制の消滅、が、今さらの圧迫の無い世界に対する困惑が突き刺さるかのよう...

そんなヴァインベルクを聴かせてくれた、ラファエル・ファイユ+レ・メタモルフォーゼス。ピリオドも現代もイケてしまうオーケストラ、そういうフレキシビリティからくる器用さが、ヴァインベルクの音楽に含む様々な要素、ユダヤのトーンであったり、擬古典主義的なところだったり、しっかりと息衝かせつつ、詩情で包み、魅了された。

で、忘れてならないのが、ウィスペルウェイのチェロ!癖のない音色、透明感は、いつもながら秀逸... だからこそ掘り起こされる豊かな表情に惹き込まれ... ヴァインベルクの音楽がより人間味を増し、聴き入るばかり... 聴き入って、ヴァインベルクの魅力を再確認。そうして、苦難を生きたその音楽人生が愛おしくなる。




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