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現実の当事者はそっちのけ。『作りたい女と食べたい女』第51話の「クエスチョニング」を考える
さてさて、恒例の『作りたい女と食べたい女』(以下、『つくたべ』)ですが、第51話になったところでいつにも増して意味不明な描写が多く、担当編集も見放して出来の悪さガン無視なまま単行本最終巻のストックを淡々と描かせているのではないかと疑う昨今です。5ページ4コマ目の「また一緒に遊ぼうねー!」の意味がわかった読者はどれだけいたのでしょうかっていう。
朝日新聞でのインタビューでは担当編集が現実の当事者との接点を繰り返し強調しておりましたが、51話の「クエスチョニング」の解像度の低さたるや、一体これのどこが当事者のためになるというのでしょうか。
第51話は南雲世奈が「自分はXジェンダーでもノンバイナリーでもない、決めかねてるからクエスチョニングがいいな。名前がついたぞヤッター!」と目覚めて、それを聞いた矢子可菜芽が「うわ~ん おめでと~う」と感動する話です。社員研修で行かされるセミナーとノリがかなり似ている気がしますが、そのあたりは脱線が止まらなくなるのでやめておきましょう。
この第51話前半のソイミート唐揚げは第50話の流れから来ているようですが、第50話で食べていたのはソイミートの鉄板焼であり、影響されたにしてはカテゴリ違いのものを注文していてよくわかりません。読者としては本物の肉とソイミートの味の違いを説明してくれないとヴィーガン食に魅力を感じるきっかけにはなりませんが、それでも食べた感想は「しっかり唐揚げだー」という妙に抽象的なものであり…とまあ、このあたりも脱線が止まらなくなるのでここまでにしておきましょう。
疑問点1 「クエスチョニング」を性自認で使うのか?
南雲世奈はXジェンダーでもノンバイナリーでもなくクエスチョニングだということですが、そもそも「クエスチョニング」は性自認で使うのかという疑問が浮かびます。
もちろん、各解説サイトにはしっかりと「使う」という内容が書かれているので、実際に使っている人も少なからずいらっしゃるのでしょう。
ただ、決め手がどうしても人との出会いに左右されてしまいがちな性的指向と比べて、性自認は自分ひとりで完結しやすいという違いもあります。ですので、「どの性別の人を好きになるのか自分でもまだわからないから」という性的指向面からの選択がクエスチョニングには多いのです。
解説サイトによると、性自認においてクエスチョニングという強い信念があって使っている人もいるらしいです。しかし、南雲世奈がそれだけの自己考察を経た上でクエスチョニングを名乗るならまだしも、「いいなと思った」程度でクエスチョニングを選ぶのは違和感が強いです。
📚新刊紹介
— 早稲田大学 ジェンダー・セクシュアリティセンター(GSセンター) (@gs_waseda) May 13, 2024
『作りたい女と食べたい女 5』
著 ゆざきさかおみ
発行 KADOKAWA pic.twitter.com/77WmBifzdZ
南雲世奈が実在の人物ならまだしも、『つくたべ』はフィクションであり、ましてやジェンダーの副教材にされる始末です。こんなカタログ感覚で選ばれていたら、クエスチョニングを名乗りたい実在の人間にとっては迷惑なのです。
疑問点2 「クエスチョニング」はそこまでポジティブな選択なのか?
![](https://assets.st-note.com/img/1716035780202-aLvZeRMrou.png)
無料サンプルページより
上記の漫画で描かれているように、何気にLGBT内で微妙な立場になっているのがバイセクシャルであります。バイセクシャルに対して同性愛者から厳しい声があったりするのは日本の昔からの定番であります。
そう考えると、南雲世奈が選んだ「クエスチョニング」にしても、そう大してポジティブなものでもなく、特に性的マイノリティから「どうせマジョリティ側に戻るんだろ」と警戒されるのもありがちな現象です。その上、前述の通り、南雲世奈は深い考えの上で「クエスチョニング」を名乗ったわけでもなんでもないのです。
『つくたべ』はアライの立場から当事者の接点を持とうとする漫画ですので、「鉄板焼も唐揚げもソイミートなら全部同じ」というように、「同じ解説サイトに名前があるからLGBTQ+全部同じ」で済ませていいやと考えているのでしょう。しかしそれは、現実の当事者をバカにしていないとできない芸当です。
疑問点3 性自認に悩んでいる南雲世奈が女子制服着用に何も思っていなかったのか?
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27.5話(2) 縫いたい女たち より
確かに南雲世奈の性自認に関しては3巻の時にも描かれています。
![](https://assets.st-note.com/img/1716038439330-bRoety7hnU.jpg?width=800)
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しかし、学生時代だけならまだしも、会社員時代でも南雲世奈は女子制服を着用しています。もちろん希望通りの学校・会社に入れるとは限らないわけですし、制服が嫌だという希望が通らなかったとかあったのかもしれません。ところが、『つくたべ』ではそのあたりの出来事を一切語りません。極めて肝心な部分であるにも関わらずなのにです。
性別違和がある方にとって男女別制服はかなり大きな社会的圧力であります。そこに何も言及もなく「女でも男でもどちらでもない」と言い出すと、読者側は唐突な印象を受けるだけなのです。
It's not just that this manga gets it.
— 箕島 綺譚(they/them) 💖 Support Black Trans Liberation (@MishimaKitan) March 26, 2023
The author of "She Loves to Cook, and She Loves to Eat" (@thakaome_uzzaki ) has CONSISTENYLY stood up for LGBTQ+ rights in Japan publicly (which many authors avoid for the fear of social repurcussions from the cis heteronormative majority). https://t.co/ZcVzSayYEJ
Not to mention that the author has also been a trustworthy ally of trans people.
— 箕島 綺譚(they/them) 💖 Support Black Trans Liberation (@MishimaKitan) March 26, 2023
From a tweet from 2020, the author wrote: "If 'feminisim' is to exclude trans women, then I would not want to call myself a feminist."https://t.co/bWxbdeBp63
更に加えて謎なのが、上記のように『つくたべ』の作者の人は海外でも広く伝えられるトランスアライだというのに、そういったトランス当事者にありがちな苦労をあっさりスルーしている点です。もはや大看板となっていたトランスアライですらガバガバとは、一体どういうことなのでしょうか…?
【締め】当事者不在! KADOKAWAは社会的責任を果たすべき
以上のように、『つくたべ』は「クエスチョニング」ひとつとっても散々な出来であり、このような当事者不在のデタラメマイノリティ漫画が公的施設などへ流れているという事態に、国の危機を感じずにはいられません。
今こそKADOKAWAは社会的責任を取って、全国の図書館から『つくたべ』を返金対応で回収すべきでしょう。五輪汚職の額に比べたら大した金銭負担でもないでしょうし。
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