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百合漫画において批判された「同性愛の葛藤」とは何なのか

 百合作品に対する批判として「同性愛の葛藤は描くべきではない」ということが言われてきました。「え? そうなの?」と思った人がいるかもしれませんが、言う人は言います。

 では、何故描いてはいけないのでしょうか。その理由が特にまとめてられているわけではないので、はっきりと言い切ることが難しいのですが、私の個人的推測で下記の2つのどちらかではないかということを書いてみます。

  1. 同性愛に葛藤する当事者を描くこと自体が差別心の発露であるから

  2. 当事者にとって辛い記憶を呼び起こす有害的な表現だから

 同性愛の葛藤描写をやめるべき理由をこうであると仮定した上で改めて考えます。そもそも「同性愛の葛藤」とは具体的にどういった描写表現なのでしょうか。


池田理代子『ふたりぽっち』(1971年初出)より

 わかりやすい例だと『ふたりぽっち』は同性愛感情を「許されない」「十字架」と表現しており、確かにこれは「同性愛の葛藤」であります。

 ただ、1970年代あたりだと、同性愛が思春期における一過性の感情と本で解説されていた時代であります。

 また、『ふたりぽっち』に限って言えば被差別の問題提起と取れなくもないように思います。



ジュリー・マロ『ブルーは熱い色』61~62ページ
ジュリー・マロ『ブルーは熱い色』65ページ

 この『ブルーは熱い色』は百合漫画と呼ぶべきではないとは考えられていそうな作品ですが、前半あたりは自分自身の内なる葛藤が描かれています。こういった感じでも葛藤表現を描くべきではないかどうか、これがよくわかりません。



なもり『ゆりゆり』「ゆりゆりafter」より

 もっと葛藤の解釈を広げるとして、この『ゆりゆり』の描写はどう判断されるのか、もっとよくわかりません。これは自身の葛藤ではなく外的要因による葛藤ですが、それをも「同性愛の葛藤」と呼ぶのかどうか、見解が見当たりません。

 そもそも『ゆりゆり』のこのあたりの描写は、あまりに軽く同性愛差別を取り入れており、人権的な問いかけであえてそういったことを描いているとは受け取り難いものになっています。何故それを商業であえて販売しているのか、私にはよくわかりません。

 どうも元は同人だったみたいで初出がいつなのか書いていないのですが、幅広く公開することをきちんと考えた上での発行だったのか、疑問が残るところです。

【追記】
 Wikipediaによると、本記事引用部分は2010年初出だそうで、『ゆるゆり』の掲載雑誌である『コミック百合姫S』休刊あたりの時期のようでした。(以上、追記終了。)



原作:藤間紫苑 作画:江川広実  『ゆりにん~レズビアンカップル妊活奮闘記~』
第3話「ビアン仲間、ユキちゃん」より
原作:藤間紫苑 作画:江川広実  『ゆりにん~レズビアンカップル妊活奮闘記~』
第4話「世間体」より

 そもそもの話として、日本社会が同性愛を尊重しておらず生きづらいのは事実であり、『ゆりにん~レズビアンカップル妊活奮闘記~』というコミックにそのあたりの事情がわかりやすく描かれています。

 こういった環境下で葛藤してしまうのは、ある意味必然のことであり、それをまったくの白紙とすべきであるかといえば、難しいところではないでしょうか。まあ、この記事で挙げている『ゆりゆり』の例のようなものが横行するようであれば、低レベルな議論に成り下がってしまうのは仕方ありませんが。



 また、同性婚が法制化され、同性愛差別もほとんどされなくなった時代になったとしても、それで同性愛者が爆発的に増えるわけではありません。

画像はイメージです。

 「同性婚法制化は少子問題に逆行する」という声に対して「元々同性愛者だからという理由で結婚をしなかった人たちが結婚するようになるだけ」などと応えるように、差別の解消で同性愛者は増えるわけではないのです。(もちろん制度が無いから諦めていた人が制度の変化により同性愛者として積極的に生きるといったことはあるでしょうが、それでも大勢には影響しない程度でしょう。)

 同性愛者が増えないということは、同性愛者にとっての「初めからチャンスの無い相手の多さ」という恋愛課題はまったく解決しないということです。そこから生まれるのは絶対に叶うことのない不毛な恋愛という問題であり、そしてそれはまた同性愛故の葛藤になってしまうでしょう。

 そういった「同性愛の葛藤」もいけないのかどうか、見解は一体どうなるのでしょうか。



【挙げた作品について】

 1971年初出の古い漫画ですが、電子版が発売されているので、絶版本を中古で取り寄せるとかせずに読むことができます。


 日本語版翻訳:関澄かおる。1990年代後半ぐらいのフランスの同性愛者を描いたバンド・デシネ(漫画のフランス版みたいなもの)。PACS制度が1999年、同性同士での婚姻が認められたのが2013年なので、夜明け前時代。著者はインタビューで「自身はレズビアンだが、あくまで実体験や他人から聞いた話を用いているだけで、自叙伝ではない」と語っています。本記事中で、この本だけ電子版が出ていません。


 2012年発行。本記事で書いたように初出年月日が書いていないので、どの頃に描かれたのかよくわかりません。少なくとも2012年より前かと思います。本記事で引用した部分と別のパートでは、校内で女子生徒から人気で告白もされてる女子生徒の話もあったりで、褒めどころを見いだせないバランス感覚がとても強いです。


 2011年以前の内容。「エッセイコミック」になっていますが、おそらくは実際の出来事をかなり改変してあると思われ、エッセイ風コミックなのかなと感じます。



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