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「マニアがうるさく、にわかに冷たいジャンルは衰退する」論がやっぱりよくわからない

 「誰でも最初はにわかなんだから、新参に対してマニアは黙っておくべきだ」と繰り返しされている話があって、私も昔はそれを信じていました。しかし、よくよく考えてみると、衰退したジャンルにはマニアしか残らないだけで、直接的な因果関係はないのではないのかとも思います。

 以前、『鬼滅の刃』が盛り上がった時、作品ファンが「あの作品は鬼滅のパクリ!」とあちこちで唱えていてウザがられていたという話があったそうなのですが、実際には『鬼滅の刃』自体が既存作品をいくつも模していると言われているわけであり、にも関わらずいわゆる「にわか」が猛威を振るえたのは、それだけ「にわか」の前に「マニア」は無力ということなのでしょう。

 以下、私が思いついた、実際に衰退しもの、逆に成長したものを、順不同で挙げていきます。



国内ドラマの時代劇

 これはもちろん今でもあるにはありますが、全盛期と比べると衰退したと言わざるを得ません。

 『蒲田行進曲』が今の時代に1からお話を考えられていたら時代劇が出てくるのかどうか何とも言えませんし、作中で軽いノリで行う時代劇演技の動きも今の役者ですぐ出来る人がどれだけいるのかけっこう怪しいところです。

 時代劇の衰退に対して「マニアがうるさいから~」と言う人も、「ポリコレのせいで無くなった!」と言う人も、なかなか見ません。「時代劇は予算がかかるし、時間もかかる、視聴率も大して取れない」とかいう話はどっかで見た気がしますが、最近のテレビは何の芸があるのかよくわからない芸能人様方々が飲み会トークしてるだけみたいな安く済ませられる番組が妙に多いので、時代劇はテレビ視聴者減少の影響をモロに受けたのが大きい気がします。

 実際のところはどうなのか知りませんが、NHKの大河ドラマは出演者のギャラが安くて、NHK大河ドラマのブランドで出演しているとかいう話があります。そのせいなのか、何故だかテレビアニメ声優の出演がよくあったりします。そういうところをケチれる放送局でないと、今や時代劇の継続は難しいのかもしれません。


対象年齢高めのアニメ

 アニメ自体が衰退しているのか成長しているのかよくわかりませんが、とりあえずマニアがとんでもなくうるさい業界であるのは確かです。求められる作画レベルは古い時代からは考えられないほど爆上がりし、日々アニメーターさんたちが薄給でそれを埋め合わせ続けています。

 この界隈から「にわかの人にも優しいアニメを!」といったスタンスが見られることなど一切なく、「覇権」というアニメの順位付けに盛り上がる始末です。(まあでも、「けもフレ2」の擁護は、どうがんばっても出来ない…。)

 そんな界隈ですが、これといった人気終末論は今のところは見えてきません。原作有りアニメの仕上がりがショボいと原作ファンからブーブー文句が噴出し、「好きなキャラが動いてしゃべった」だけで満足できるファンは無視されるので、今後もマニアが絶賛するアニメが理想としてあり続けるでしょう。


本格ミステリ小説

 これまたどっかのジャンルみたいに「そもそも『本格』の定義って何なんだよ」とかそういった議論もされているらしいのですが、衰えたジャンルと悲観的に捉えられる向きがあるらしいです。

前述の通り日本では「新本格」によって「本格」が再興したわけだが、海外では「新本格」が起こらなかったため、現在では「本格」らしい海外作品は、黄金時代の作家を敬愛する物好きな少数の作家の作品がぽつぽつ入ってくる程度(ポール・アルテとか、アンソニー・ホロヴィッツとか)。ミステリー全般を扱う『このミス』や『週刊文春ミステリーベスト10』が海外作品にもそれなりにページを割いているのに、本格専門の『本格ミステリ・ベスト10』では海外作品のページがめちゃくちゃ少ないのがその証拠である。
そんな状況のため、日本の「本格」作品が海外で翻訳され「Honkaku」と呼ばれるという逆転現象も起きたりしている。

本格ミステリとは (ホンカクミステリとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

 どうしてジャンルが衰退してしまったのか、そもそも本当に衰退はあるのかとか、いろいろと議論もあるようですが、その代わりなのか何なのか、妙に変わり種のミステリー系作品は見るようになったなあと、ほとんど詳しくない人間としては思います。


プロ野球

 何気にとんでもなく「にわか」に優しくないのが現代のプロ野球であります。「観戦料が高い」「交通アクセスも大して良くない」「応援は集団統率形式」と、異様に敷居が高い趣味です。

2019年のプロ野球観戦者数は過去最高を更新。何がプロ野球ファンを増やしたのか?|その他の研究・分析レポート|経済産業省

 にも関わらず、観客動員は右肩上がりを達成。

 無観客試合終了後の観客動員も好調なようで、かなりの勢いがあります。

 しかし、「マニア」の質は非常に残念なものであり、球団や監督、コーチ、選手と、理想を過剰に押し付けて揉める例が後を絶ちません。ファン同士のケンカも日常茶飯事です。

 プロ野球がどうしてこれほど人気上昇したのか、明確な結論の総意というのは出ていないみたいですが、必ずしも「にわか」に優しくなったからではないような気はします。(やっぱりよくわからない。)


東京ディズニーランド

 夢を楽しむテーマパークだった東京ディズニーランド。今ではすっかり選りすぐりのマニアのための場所と変化しました。一体どういうこっちゃこれは。

 「下調べをしない客はザコ! 何もせずにやって来ておいて文句を言う奴は初めから来んなアホ! アップデートしろ、アップデート!」

 まあ、夢は現実なしで買うことはできないということなんでしょう、知りませんけど。この先、衰退するのかどうかは今はまだよくわかりません。


少女漫画

 これは市場衰退しました。というか、女子児童向け市場全体が衰退したとか言われています。そのあたりはムードでの判断ではなく、数字としてそうなので、仕方がありません。

 その理由のひとつに、少女漫画原作のアニメで視聴率が取れなくて、新規アニメ化作品も少ないということが言われています。言わば「にわか」が増えない状態とも呼べるわけですが、そこに「マニア」の介入があったみたいな理屈も出てこないので、消費者側の問題にはならないでしょう。


BL

 BLが衰えたという話は特に聞きませんが、学級会だの何だのと「マニア」がとんでもなく厳しくしてるのを何十年と続けている界隈でもあります。言ってみれば「にわか」にはかなり厳しいわけなのですが、マニアが文化を衰退させる論を信じるのであれば、既にかなり縮小しているはずです。

 しかし、近年の現状では地上波実写BLドラマが増えてきたため、衰退していると見るには苦しいかなと思います。

 なお、BLは作品ファンによる二次創作がかなり強いジャンルでもあるので、数字で盛衰を判断するのが難しいところでもあります。


百合は成長しているのか衰退しているのか…?

 近年ではすっかり「青年漫画」の枠で発表されることが多くなったのが百合漫画です。「ひらり、」や「つぼみ」といった大きめの商業百合漫画レーベルが実質終了して以降、新たな百合漫画レーベルもなかなか出てきません。(小さめなところなら見つかりますが。)

 とりあえず各媒体作品でも明らかに作品数は増えてきていて、衰退と呼ぶべきものではないように思います。

 昨今は同性婚訴訟など、一般の人でも同性愛自体に認知が広まってきています。そのため、ここは残念なことではあるのですが、「バズネタ」としても百合は注目されてきているようにも感じます。

 以前にもどこかで書きましたが、紙媒体雑誌の独自色みたいなものが薄いWEB漫画サイトや漫画アプリだとオールジャンル作品の発表の場となるため、百合漫画のようなニッチジャンルでも発表しやすいという事情で百合漫画の数は増えてきたのかなと思います。

 ひとつ言えるのは、百合というジャンルが「ああいうのが売れるから」というだけで『ゆるゆり』のような作品ばかりで回していくようなことにはならなかったことです。商業的にメジャーにはなれずとも、ちゃんとした百合作品を生み続けているのは、コア層がしっかりと生き続けている証拠であると思います。(それが「マニア」と呼ばれるものなのかどうかは何とも言えませんが。)


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