“もちづきさん”で明確化した『作りたい女と食べたい女』過食問題と、ボディポジティブ
いやいや、最初からおかしかったじゃないか…と、私は思うわけですが。
『ドカ食いダイスキ! もちづきさん』は2024年5月に連載が開始された、不健康ドカ食いコメディ漫画です。本記事公開日時点ではまだ第2話までしか発表されていないので、この後に最初とは違った内容へと変化しているかもしれませんが、最初に話題になった要素を前提として書いていきます。
この『ドカ食いダイスキ! もちづきさん』の内容は、ある意味自傷行為であり、それをギャグとして扱う問題はあるわけですが、身の破滅を読者に仮想体験させる作品というのもフィクションのあり方のひとつなのではないかと私は思います。
本作の特徴として、作者も読者も危険性を明確に認知しているという点がありますが、中には真似をしてとんでもないことになってしまう人が出てくるかもしれません。そうならないよう、今は祈るばかりです。
さてさて、『作りたい女と食べたい女』(以下、『つくたべ』)の春日十々子も大量に食べます。
カドコミで無料公開されている第3話では卵8個と米4合使ったオムライスを1人で1度に当たり前のように完食しています。
ところが、『つくたべ』に関しては過剰に食べることによる健康面の不安がほとんど描かれません。
春日十々子の超大食はキャラクターの性的魅力とのみ扱われ、挙句の果てには鑑賞会まで行われる始末です。
『つくたべ』は「現実ならどうとか、健康がどうとか、漫画を読んでそういうつまらないことを考えるのはやめろ」というスタンスのファンタジー漫画なのでしょうか? しかし、第4話では「米食べすぎて膵臓やばいです」というセリフがあったりします。(テレビドラマ版ではカットされましたが。)
第3話にて毎日たくさん食べているわけではないと語っていますが、「胃が小さくなる」という言葉があるように、人間の体は毎日の行動に順応するよう出来ているので、「今日はそういう気分だから」というだけで摂取可能な食事量が極端に増えることはありえません。
そもそも、この第3話の描写は食費の質問に対する回答なので、「こないだみたいな食事」というのが、単に第1話で両手に持っていたフライドチキンの購入費の話をしていただけの可能性もあります。
このように、『つくたべ』は基礎的な健康感覚を欠き、それでいて主人公の野本ユキは春日十々子の健康を案じることなく好き勝手に食べさせるという、人としての良識の欠如を強く感じさせます。
もっとも、『つくたべ』はあくまで食事シーンに絞って描いているだけであり、作中シーン以外のところでは食べる量をかなり抑えているに決まっているだろうから、結果春日十々子は健康を保てており問題はないという意見もあるようです。
しかしです。英語圏のボディポジティブの観点からすると、見方が大きく変わってくるようです。
(※大人が主人公の百合漫画は『つくたべ』連載開始時だと特別珍しくはなくなっていましたが、英語圏に日本の漫画すべてが翻訳輸出されているわけではないので、情報が届いていないのかもしれません。)
英語圏のボディポジティブの考え方からすれば、思う存分食べ尽くすのは適切にアップデートされた価値観であり、この体型を含めて祝福されるべき「私らしい私」ということらしいです。加えて、パートナーである野本ユキが決して痩せさせようとすることもなく、ましてや「春日さんがずっと健康でいてほしい…」などという世迷い言を発しないこともまた、ボディポジティブからの観点としてはとても模範的であり、高く評価されていることがわかります。
こういった見方からすれば、作中以外のところで春日十々子が食事を我慢するということはむしろあってはならないことであり、健康を盾にして「彼女は食事量を減らすべき」だの何だの言ってくる読者は、アップデートが遅れた愚かしい人間ということなのでしょう。
保守的で目覚めが出来ていない我ら日本の読者は、春日十々子が“自分らしく”食べ尽くすのを祝福し、その自分らしさによって作られた体型の美をきちんと認めなければなりません。春日十々子は「女性は少食」という根拠のないジェンダーバイアスに苦しめられ「肥満は悪であり醜態である」という誤った価値観の被害者であったことを忘れてはならないのであります。
ところで。
単行本第5巻にて上記のように学生時代は運動音痴であった過去が明かされました。運動が苦手な中、夕食で母からは目玉焼き1つを減らされ父からは食べ物を譲ってもらえなかった春日十々子は、とても辛い思いを強いられていたのではないでしょうか。涙!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?